最近読んだ本695:『東大なんか入らなきゃよかった』、池田渓 著、新潮文庫、2025年
東京大学農学部ご卒業、同大学院農学生命科学研究科修士課程を修了された、著者の池田氏(1982年生まれ)。
氏は、
自分が(中略)「東大を卒業して心底幸せな人生を送れている」という世間のイメージとはほど遠い現実を生きているのも事実だ。(P. 372)
東大に漠然とした憧(あこが)れを抱いている人たちに、「本当はそうでもないんだよ」と伝えたい。(P. 15)
このような動機で上掲書執筆を決意なさいました。
そして「ネガティブなエピソード(P. 16)」をもっている東大の関係者らに取材をおこない、その結果、
東大に入ったある種の人間は、東大に入ったがゆえにつらい人生を送るはめになる。(P. 14)
如上の感想にたどりつかれたのです。
具体例としては、
○東大に入学して周囲の同級生たちから「圧倒的な能力の差を、あらゆる場面でまざまざと見せつけられ(中略)、心が折れそう(P. 65)」になっている在学生
○東大の大学院で学位を取得したけれども行き場がない博士たち(おひとりは自殺)
○東大卒業後メガバンクに就職したところ仕事が合わず「うつ病(P. 118)」を発症してしまったご自分の友人
○東大卒の肩書きを有しているがために勤務先(地方市役所)でいじめを受けたご自分の後輩
○東大を卒業したあと警備員として働き、手取り年収が180万円である先輩
……東京大学を出ても「つらい人生を送るはめに」なった人たちが一定数おられると知ることができた、驚きのインタビュー集でした。
ただし、東大卒である点を抜きにすれば、つらい人生を送っている人々など世間に無数にいらっしゃり、その意味では大した驚きは感じません。
ところで、本書は面倒見が良く、第1章にて「東大入試(P. 26)」突破のコツを述べてくれており、終章では東大卒が遭遇する「生きづらさ(P. 350)」を乗り越える術(すべ)も提示して下さっています。
そのうちの、入試突破のコツ。
必要なのは「膨大な標準レベルの問題を短時間で正確に処理する」というスキルであり、それは教科書が普通に理解できる高校生であれば、進学校や予備校の東大受験コースなどで行われている東大入試に特化した訓練によって身につけられる。(P. 32)
わかります。
野球だったら出場選手全員がホームランを打つことで容易に勝てますし、小説だと万人を感動させる名作を書きさえすれば芥川賞を取れるわけで、きっと同じように「それほど難しいことではない(P. 33)」のでしょう……。
最後は皮肉っぽくなってしまいましたが、わたしは本書を読み、著者の誠実な筆致に好感を抱きました。
金原俊輔