最近読んだ本621:『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』、田村耕太郎 著、朝日文庫、2023年

けっして悪い本ではないのですが……。

早稲田大学をご卒業後、慶應義塾大学の大学院および海外の複数の大学院で学ばれ、東京大学にも所属したのち、参議院議員になられたり、シンガポールやアメリカ合衆国の大学で教壇に立たれたり、なさっている田村氏(1963年生まれ)。

多彩な経験と幅広い視野をおもちでいらっしゃるかたと容易に推察できます。

英語もお得意の模様。

そんな人物が上梓なさった書物ですから耳寄りなご意見が聞けるはずで、実際、その期待は裏切られませんでした。

世界に出る。英語を学ぶ。(pp.41)

日本人とりわけ若い日本人に、外国へ飛びだすよう、英語をマスターするよう、外国で就職したり起業したりするよう、強く促す内容です。

空気を読める優れたセンサーを持った日本人が、空気を読んだうえで、上手に主張し、行動をすれば世界一だ。空気を読まないでガンガン発言したり、行動したりする無神経な人より絶対受け入れられる。(pp.58)

アジアのエリートはアメリカに学びに行く。世界最高の教育現場があり、最も多様で有意義なネットワーキングの場は、アメリカなのだ。アジアでのネットワーキングを狙うならまずアメリカを狙えと言いたい。(pp.146)

人生はやったもん勝ちだ。行動した人にだけ道は開けるのである。(pp.208)

われわれの未来は二つに分かれる。「英語ができる人」と「英語ができない人」のどちらかだ。(pp.214)

すべておっしゃるとおりと賛同いたします。

そして田村氏がいちばん渡航・在住をお勧めになる国は「シンガポール(pp.154)」で、理由を読み、わたしは納得しました。

シンガポールで活動する前に、まずはアメリカへ行って英会話スキルを磨き、ついでに人脈を拡大しなさい、という助言も説得力があります。

それなのに『君は、こんなワクワクする世界~』を読了後、どうも当コラムにてポジティブな感想をあれこれ述べる気もちが起こりません。

理由は、ひとつひとつの話があまりに個人の成功に集約されていたから。

「海外で最高の果実を得るために」なるタイトルの章すら設けられていました。

むろん成功は大事ですし、とある個人の成功によって日本が恩恵を受ける展開だって十分生じ得るでしょう。

しかし、書中、その到達点を目指した発破ばかりがかけられていたせいで、わたしは疲れ、興ざめしてしまいました。

もうひとつ、田村氏はいろいろな国家の魅力や可能性について自己体験を交えつつ書いておられるのですが、登場したほとんどの国々が日本を相当上回る階層社会おまけに汚職社会です。

そういう国で浮かばれない状況に身を置く庶民たちの苦渋を顧慮すると、彼ら・彼女らの眼前で成功者として闊歩するのは、失礼な行為、控えるべき行為ではないか、と思いました。

自分自身の発展に資するのだったら他国の現実など構わないと言わんばかりの発想に、それはいわゆる「グローバル化(pp.39)」の一端なのでしょうけれども、むかしの白人が(日本人も)植民地などでおこなった悪行を連想し、身勝手さを感じます。

金原俊輔