最近読んだ本706:『アウト老のすすめ』、みうらじゅん 著、文藝春秋、2025年
みうらじゅん氏(1958年生まれ)は「ライターであり、イラストレーターであり、ミュージシャン(P. 60)」でもある、多才な人物です。
タイトルに用いられている「アウト老」とは、同氏による造語で「アウトローをもじった単なる駄ジャレ(P. 2)」。
「フツーを避け(P. 2)」「くだらないとされる(P. 3)」ことに邁進(まいしん)する「大人げない(P. 3)」「はみ出し老人(P. 3)」の意が込められています。
「ゆるキャラ(P. 20)」とか「マイブーム(P. 74)」とか「いやげ物(P. 249)」とか、日本社会の一面を鮮やかに切り取り、だれもが喜んでつかいたくなるような言葉を発想した氏ですので、こんな造語なんかお手の物でしょう。
さて、『アウト老のすすめ』は、
(1)みうら氏が若かったころの体験
(2)加齢にともなう心身の変化
(3)日本内外の芸能人たち
(4)コレクション
(5)下ネタ
……などの話題で成り立っていました。
うち、(1)(2)は、氏とわたしの年齢が近い関係で共感を抱きやすく、ある箇所では声をだして笑ったほどです。
つづいて(3)、こちらが知っている人のトピックの場合、内容に付いて行けました。
けれども(4)は、当方、何かを集める趣味をもっていないため、よく理解できなかったです。
そして(5)ですが、氏が真骨頂を発揮なさるのは、どうやらこの分野みたいでした。
それでは、上記でいえば(3)におおむね該当する文章を選び、引用させていただきましょう。
みうら氏がアメリカ映画『インディ・ジョーンズ』の主人公に宛てた架空のファンレターです。
貴方の冒険好きは死んでも治りません。どこの病院に行っても同じことを言われるでしょう。
で、ここからが本題なんですが、もし、次の冒険先が決まってないのであれば、私の住んでる日本に存在する「キリストの墓」(青森県)と「モーゼの墓」(石川県)を調査して頂けないものでしょうか?(中略)
キリストは日本で106歳の天寿を全うしたという伝説も、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の聖杯(それに注いだ水を飲むと永遠の命が約束される)と、何らかの関係があるのでは?
「パンパパッパ~ ♫」
貴方は来る!
仮のタイトルは『インディ・ジョーンズ/何故か日本』。(P. 108)
工夫をこらしたユーモアを堪能しました。
ところで、『アウト老~』の世界に浸りながらわたしが思ったのは、まず、みうら氏の収集癖および過去のテレビ番組に関するご記憶が、泉麻人氏(1956年生まれ)と双璧をなしている、ということ。
いったいおふたりは、これまでに得た無数の品々をどこでどうやって保管しているのか、幼少期どれほど長時間テレビにかじりついていたのか、しかも視聴した番組の粗筋をいまだにおぼえているのはどんな能力のおかげなのか……、こうした疑問が生じます。
もうひとつは、みうら氏のエッセイの書きかたが、中島らも氏(1952~2004)のそれに似てきている、ということ。
わたしはかねてより「すこし類似性があるな」と感じていたのですが、『アウト老~』では一層そっくりになった印象をもちました。
みうら氏が中島氏を真似ていると申しているわけではありません。
両者の芸が完成に近づいた必然の結果として、相通じる雰囲気になっているのではないでしょうか?
金原俊輔