最近読んだ本721:『メイド・イン・ジャパン:日本文化を世界で売る方法』、佐々木敦 著、集英社新書、2025年
現代日本の「文化的コンテンツ(P. 11)」を包括的に眺め、そういったコンテンツ(創作物)のこれからの発展は期待できるのか、いまのところ成功しているコンテンツの海外輸出が今後も成功しつづける可能性はあるのか、などについて展望した本です。
おもに音楽・文学・映画・演劇が語られました。
佐々木氏(1964年生まれ)のご造詣が深く、こちらは知識のかけらも有してないような話題ばかり。
とくに、音楽の章はお手上げでした(当方がお手上げだっただけで、J-POPファンやK-POPファンには感情移入ができる内容のはず)。
主題自体が重要だったうえ、
ローカル → グローバル。
ここに日本文化の海外進出の重要なヒントがあるのではないかと思うのです。
ローカルであることでグローバルに突破する。(P. 168)
こんな示唆に富んだ文章に接することもできました。
無益な読書ではなかったです。
が、わたしには読書中3つの不満が生じました。
さっそく書かせていただくと、まず、1点目。
昨今、世界を相手に最も競争力を発揮している日本文化は、マンガとアニメそしてゲームでしょう。
けれども本書ではそれらの事柄への言及がほとんどありませんでした。
なぜそうなったかの説明がなされていたとはいえ、まるで主題の根幹となる案件を軽視しているかのようで、わたしには納得できません。
2点目。
日本文化の将来を検討するにあたって、日本の過去にも目を向けるべきでした。
たとえば、むかしの我が国が隋や唐から受けた刺激、天皇制、封建制度、元寇、幕藩体制と鎖国、帝国主義、世界大戦、ほかにもいろいろありますが、こうした国の歴史が現在の文化にどう関与しているのか?
ぜひとも突き詰めていただきたかった……。
また、既述の大きな歴史ばかりでなく、ややこ踊り・かぶき踊りあるいは能楽(五人囃子とか)とAKB的アイドルグループやJ-POPとのつながり、根付けがいつしかストラップとなった流れ、ひな人形だの入れ子人形だのを作製する丁寧な技術がフィギュア作製におよぼしたかもしれない影響、絵巻物さらには紙芝居などのマンガ・アニメへの進化、といった小さな歴史も吟味が必要だったと思うのです。
3点目。
本書の論題のひとつとして「ニッポンのカルチャーがグローバル化する方法(P. 22)」があり、佐々木氏によれば、それを果たすにあたって、
ここで問わなくてはならない。ニッポン人になるか、それともガイジンになるか、この二択しかないのでしょうか? 第三の選択は考えられないのか?(P. 25)
幽遠な問題意識と考えます。
しかるに、
周知のように、日本の作家でノーベル文学賞を受賞したのはこれまでに2人、川端康成と大江健三郎です。(中略)
以後、日本からノーベル文学賞は出ていません。(P. 122)
「ニッポン人になるか」「ガイジンになるか」「第三の選択は考えられないのか」をノーベル文学賞がらみで考察するとき、カズオ・イシグロ氏(1954年 長崎市生まれ、2017年 ノーベル文学賞受賞)を素通りしてはいけないのでは?
彼こそが日本人・イギリス人・それ以外の何者か、のうちのどれかを具現しているご存在でしょうから。
以上、わたしが疑問に感じたことを述べました。
わたしは佐々木氏の博識ぶりには頭が下がるものの、どうやら彼との相性はさほどよろしくないみたいです。 「最近読んだ本629」
金原俊輔

