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『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?:キャリア思考と自己責任の罠』、福島創太著、ちくま新書、2017年。

著者(1988年生まれ)の専攻は教育社会学。

本書は、著者が東京大学大学院へ提出した修士論文に修正を加えて出版した、専門書です。

ゆとり世代の転職という問題に関し、先行研究の結果を参考としつつ、おもに「面接法」を用いて論を進めました。

面接法という研究法は研究結果の恣意的な操作が容易であるため、ふつう(すくなくとも心理学の世界においては)修士論文での使用は喜ばれません。
わたしは同法が東大の大学院でOKだったことに驚きをおぼえます。

その件と関係はないのかもしれませんが、本書は心理学者のわたしから見ると隔靴掻痒(かっかそうよう)的な内容でした。

ある状況を紹介し、それにまつわる調査を示して、当該状況を説明する、ときどき面接記録を挿入したり社会学者たちの学説を援用したりする、こうした構成に終始しており、ゆとり世代の人々の支えとなる中身になっていないのではないか、こう思ってしまいました。

心理学ならば同じテーマでもかなり違った展開にするでしょう。

臨床心理学の場合は、まずはゆとり世代の「欲求不満耐性」について調べ、必要に応じ耐性向上をめざす取り組みへつないでゆくだろうと想像します。

学習心理学や行動心理学は、転職を決断する際に「すでに転職した他者の体験がモデリングを生じさせているのではないか」と見るはずです。
そのうえで、たとえば『転職したら年収が2倍になった!』なる通俗書の執筆者をモデルとしているような当事者に再考を促したりします。

産業心理学だったら、本人あるいは職場内のメンタルヘルスが転職の決断へどう影響しているかに焦点をあてるかもしれません。
メンタルヘルス改善によって実は当事者が欲していない退職を食い止めようとする事例研究もおこなわれるでしょう。

以上、社会学と心理学は異なる学問ですので、アプローチの違いが起こってしまうのは仕方がないと認めはします。

それでも産業カウンセラーとしてもうひとこと書かせていただくと、わたしは第6章「キャリア面談は有効か?」は「主張が表層的だ」と感じました。

著者はここで、研究法のひとつ「参与観察法」をとおして収集した情報に、私見を添えられています。

参与観察法が悪いとまではいいませんが、(同章ご執筆前に)カウンセリングそしてキャリア・カウンセリングの基本文献をきっちり渉猟しておくべきでした。

批判的な感想ばかり語ったものの、読んでいて参考になった箇所は当然あります。

「この会社で何を実現したいの?」、「キミは何がしたいの?」と問われた就職活動の面接で「最後に何か質問はありますか?」と言われるので「入社されたとき、どんなことを実現されたいと思われていましたか?」と聞いたら、「我々の時代はそういったことを考えるようなことはなかった」という回答が返ってきたと怒っていた友人がいた。(pp.171)

秀逸なエピソードです。

このやりとり、就活をしている自分の学生たちにぜひ教えようと思いました。

金原俊輔

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