最近読んだ本310
『狂気の科学者たち』、アレックス・バーザ著、新潮文庫、2019年。
英語で書かれている上掲書を和訳されたプレシ南日子氏は「訳者あとがき」にて、
翻訳のお話をいただいたとき、「私もちょうどこういう本が読みたかったんだ」と思いました。というのも、以前秘書として理化学研究所に勤めていたとき、科学をネタにしたジョークやちょっと変わった研究の話をときどき耳にしたのですが、わかりやすく説明してもらえば、門外漢の私が聞いてもとてもおもしろかったからです。(pp.435)
こう語られました。
おもに欧米でおこなわれた「史上最もとっぴ(pp.3)」で「奇想天外(pp.3)」で「風変わり(pp.5)」な科学実験の数々を収録した内容です。
わたしはこの種の本が好きなため、わくわくしながらページを開きました。
そして、がっかり……。
あまりに心理学実験の紹介が多すぎたのです。
心理学専攻だったら知らない人はいないだろうと考えられる実験ばかりでした。
ワトソンの実験、スキナーの実験、ハーロウの実験、ミルグラムの実験、フェスティンガーの実験、ダーリーとラタネの実験、シモンズとチャブリスの実験、ロフタスの実験、などなど。
心理学関係者は本書を手に取る必要がないとすら感じます。
ただし、けっして悪い読物ではありません。
むずかしい諸実験を平明な文章で解説してくださっています。
個人的には第5章「動物の話」がおもしろく、なかでも「『忠犬』は本当に飼い主を助けるのか」項は出色でした。
飼い主の緊急事態に愛犬たちはどのようにふるまうのか、『名犬ラッシー』みたいに機敏で適確な動きを示してくれるのか、を研究したものです。
ウェスタンオンタリオ大学の研究者クリスタ・マクファーソンとウィリアム・ロバーツは、イヌの飼い主12人に、広い野原を散歩中に心臓発作が起きて倒れたフリをしてもらった。(中略)
息を荒らげ、咳(せき)をし、あえぎ、腕を抱え、倒れて、そのまま動かず地面に横たわるのだ。木に隠しておいたビデオカメラで、このあとのイヌの行動を記録した。研究者たちは、イヌが10メートル先に座っている見知らぬ男性に助けを求めるかどうかに着目していた。(pp.214)
結果について、ここでは触れません。
想定外の結果ではありませんでした。
それはそうと、「スキンシップ」項に、
サンフランシスコ大学の心理学教授コリン・シルバーソーンは、1972年に実験を行い、他人に触れることの威力と危険性を発見した。(pp.70)
という記述がありました。
サンフランシスコ大学はわたしの母校です。
同大の大学院で心理学を学びました。
1972年はまだ渡米していなかったし、在学中にシルバーソーン教授のお名前を聞いたことがあるわけでもないのですが、母校が登場してきて嬉しく思います。
金原俊輔