最近読んだ本588:『貧困女子の世界』、中村淳彦 編著、宝島SUGOI文庫、2023年

上掲書は、中村氏(1972年生まれ)が過去に出版なさったルポルタージュ3冊をご自身で再編集し、1冊におまとめになったものです。

3冊のうち、わたしは、

中村淳彦 著『新型コロナと貧困女子』、宝島社新書(2020年)

を読んでおり、本コラムで書評もいたしました。「最近読んだ本377」

そこで『新型コロナと~』は省き、他の2冊に書かれていたと考えられる話題を、『貧困女子の世界』から2つ選んでご紹介します。

まず、第4章「非正規女子の貧困世界」。

労働派遣法が改正されると、地方自治体は役所の窓口業務や図書館などの住民サービスをどんどん非正規雇用者に置き換えた。(中略)
非正規職員の制度がきわめて悪質と呼ばれるのは、民間以上に彼らの賃金を抑えていることで、図書館司書などの求人を検索すると時給は最低賃金から1000円程度まで。(中略)
市民のための自治体が、市民を貧困に追い込んでいるのだ。(pp.205)

役所の窓口は公務員のかたがたでなく非正規の人たちが担当していらっしゃることは存じていました。

しかし、該当の皆さまの賃金が非常に安いという実態は、本書で初めて知りました。

つづいて、第5章「シングルマザーの貧困世界」によれば、

私はたくさんのシングルマザーの取材を経験しているが、精神疾患を患っている母親は多い。うつ病から始まり、双極性障害、統合失調症と症状はさまざまで、先日はセックス依存症の母親を取材した。(中略)
お金と子供の悩みに明け暮れ、大抵は稼がざるを得ないので長時間労働も強いられる。
子供をネグレクトしながらダブルワーク、トリプルワークすることで、多くの母親は精神の限界を超え、精神疾患になってしまう。(中略)
精神を患った母親は、まともに働けなくなり、さらに生活は苦しくなる。(pp.234)

ため息が出るような悪循環です。

双極性障害や統合失調症はおもに体質が原因の精神疾患ですので、シングルマザーである境遇は病気の原因とはなりません。

とはいえ、シングルマザーたちの苦労に苦労を重ねる日々が発症の引き金になったという流れは、じゅうぶん想定可能です。

中村氏は「はじめに」で「貧困女子たちは苦しんでいる。貧困女子まみれの日本。これからどうなってしまうのだろうか。(pp.10)」と趨勢を心配なさり、「おわりに」では、

もはや一度下層に転落した女性は、生涯低賃金労働と性的被害に苦しみながら生きる、という選択肢しかないのだ。(pp.286)

こんな救いがない結論を記されました。

たしかに『貧困女子の世界』を通読すれば、そうした結論にたどりつくのは不可避と感じられます。

状況を改善するためには、政界・産業界による本気の介入が必要でしょう。

金原俊輔