最近読んだ本624:『詐欺師入門:騙しの天才たち、その華麗なる手口』、デイヴィッド・W・モラー 著、光文社未来ライブラリー、2023年
上掲書は、わたしにとってふたつの理由で期待外れでした。
理由のひとつめはこうです。
書中で紹介されている「騙し」の「手口」が、映画、
ジョージ・ロイ・ヒル 監督『スティング』(1973年)
を通して、われわれ一般人が少なからず知っている内容だったこと。
けれども、上記件は『詐欺師入門』の責任ではありません。
なぜかといえば、本書は1940年にアメリカ合衆国で発行されたのち絶版となり、2023年に日本で再版された読物で、そもそも、
ジョージ・ロイ・ヒル監督は本書に触発されて『スティング』(1973年)を製作した(後略)。(pp.414)
からです。
あの有名な映画よりもこの本のほうが古く、古いばかりではなく映画の元ネタとなっていたわけです。
理由のふたつめは、ユーモア不足の問題。
わたしは本書に対しユーモラスな話の展開を予期していたのですが、そういった箇所はごくわずか。
しかも、だまされる人が続々登場してくるので、だんだん不快にさえなってきました。
『スティング』のストーリーみたいに悪い奴が罠に嵌(は)められる流れだったら溜飲が下がるいっぽう、書中に出てきた詐欺師たちは獲物にするのがほとんど普通のかたがた。
不快感に加え、気の毒さもおぼえました。
さて、どのような書物であっても何かしら学びにつながる部分はあります。
『詐欺師入門』も同様でした。
そこで、以下、わたしが本書を読んで学んだことをふたつ記します。
ひとつは、街や駅やお店で馴れ馴れしく話しかけてくる他人は詐欺師である可能性が高い、という認識をもった点。
詐欺師はどんな人とも親しくなれる。15分もあれば誰とでも仲よくなれるし、1日か2日あれば親友の域にまで達することができる。(pp.170)
気をつけなければならないものの、詐欺師が狙うのは主として富裕層ですから、わたしのごとき庶民の場合、過度に気をつける必要はないでしょう。
もうひとつ。
中国人を騙すなんてまず無理だろう、というのがおおかたの詐欺師の意見だ。「中国人を騙そうなんていう間抜けなやつにはお目にかかったことがないね」(後略)。(pp.192)
詐欺師たちのあいだで「中国人ってのは抜け目がない(pp.193)」と受け止められていた事実を教えてもらいました。
当時の在米中国人が詐欺を生業(なりわい)とする連中ですら敬遠したくなるほど抜け目のなさを発揮していたとしたら、その海千山千ぶりは凄い、アジア人の誇りと言えるのではないか、と感じさせられます。
金原俊輔