最近読んだ本296

『なんでわざわざ中年体育』、角田光代著、文春文庫、2019年。

これは、30歳代の半ばに入った角田氏(1967年生まれ)が、「自分にできるかどうか(pp.9)」を知りたくて、マラソンを始め諸スポーツに挑戦なさる、その挑戦の顛末(てんまつ)を記された連載エッセイを文庫化した作品です。

おもしろいお話がつづき、とりわけ著者が4回も参加された「那覇マラソン」が楽しげでした。

左手にしょっちゅう給水場所が出てくる。
そうして気づいた。主催者による給水ではなく、婦人会や青年団や何かの団体、あるいは個人が給水や給食をしているのだった。(中略)
友人同士らしいグループだったり、商店のスタッフたちだったり、あるいは親族一同だったり、子どもたちとその親たちだったり、ときには、おばあさんがひとりきりだったりが、何かしらを差し出している。砕いた黒糖、バナナ、むいたみかん、チョコレート、スポーツ飲料、ゼリー飲料、一口大のおにぎり、等々。(pp.40)

沖縄県のみなさまの親切さや、ご自分たちでマラソン大会を盛り上げようとする高度な市民意識が、感じられます。

おそらく人気の催しとなっているでしょう。

角田氏は、マラソンのほかに、登山、ボルダリング、ヨガ、トレイルレース、などの活動も体験されました。

そして、本書「あとがき」においては、氏の年齢が50歳を超えられています。

「身体を動かす」という点で、ご本人にとって悔いがのこらない中年期だったのではないか、と慶賀いたします。

ところで、『なんでわざわざ~』にたいして、わたしはふたつの違和感をおぼえました。

まず、ひとつめ。

著者は幾度も「私は走ることが好きではない(pp.14)」と、お書きになっています。

別にこれが「ウソだ」とまでは思いません。

しかし、そのわりには、たびたびフルマラソンやハーフマラソンに参加され、あまつさえ完走していらっしゃり、走るのが本当に好きでない人だったら、普通こういう結果には至らないだろう、と想像しました。

ふたつめ。

本書の最初の話題「東京マラソン!」(pp.14)から3番目の話題「那覇マラソン その1」(pp.38)までのあいだに、わが国では「2011年 東日本大震災」が発生しています。

ですが、著者は当該事変にまったく触れられていません。

「那覇マラソン その1」以降のエピソード類は、大震災にともなう深刻な社会混乱と同時進行しながら、ご経験されたわけです。

むろん、それが個人の自由・得手勝手であることは衷心より認めるものの、有名文化人として、書中、一言ぐらいはあってしかるべきだったのではないでしょうか。

金原俊輔

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