最近読んだ本609:『2000年の桜庭和志』、柳澤健 著、文春文庫、2023年

プロレスラーで、総合格闘家としての実績も有されている、桜庭和志氏(1969年生まれ)。

上掲書は彼の闘いの半生をつぶさに語ったスポーツ・ノンフィクションです。

2017年に彼が米国の総合格闘技団体UFCより「殿堂入り表彰(pp.10)」を受けた件から話が始まりました。

受賞は日本人初の由です。

プロレスに興味がないため、わたしは桜庭氏の存在をうっすらとしか知らず、殿堂入りになるほどの凄い選手だと分っていませんでした。

『2000年の桜庭和志』を通読し、彼の偉大さを認識することができました。

スタミナへの圧倒的な自信、相手を観察し、隙を徹底的に突く頭脳。変幻自在の攻撃で相手を混乱させる戦略。自分よりも遥かに大きな相手と戦う勇気。(pp.30)

総合力を備えたファイターだったのです。

その結果、

1999年から2000年にかけて、桜庭和志はグレイシー姓を持つ柔術家を次々に破り、世界的な強豪にのし上がった。(pp.426)

グレイシー柔術に対し、長いあいだ日本勢が誰も勝てなかった事実を記憶しています。

そんな相手を倒したのですから、桜庭氏は「国民的なスター(pp.425)」に。

桜庭氏とホイス・グレイシー氏(1966年生まれ)とが相まみえた「107分の死闘(1)(2)(3)」章の全45ページは、本書で最も熱意がこもった箇所でした。

ところで、プロレス界だの格闘技界だのには多数の団体があり、それぞれに方向性が違い、規模や収益もまちまちで、桜庭氏とてそうした状況に無関係というわけにはいきません。

氏のお立場あるいはご所属先が年を追うごとに変遷してゆきます。

書中、その経緯が記されているものの、あまりにたくさんの団体名が出てきて、わたしは面倒くさくなり、おぼえる労を放棄しました。

いっぽう、著者(1960年生まれ)の豊かな知識には敬服させられます。

2例を示せば、まず、エドワード・ウィリアム・バートン=ライト(1860~1951)なるイギリス人がいたそうで、20世紀初頭、

バートン=ライトは「私はまったく新しい護身術バーティツを創始した。タニ親子はそのインストラクターである」と説明したが、内実は柔術と変わらないものだった。(中略)
シャーロック・ホームズの命を救ったバリツ(Baritsu)とは、バーティツ(Bartitsu)の誤記であったというのは、シャーロッキアンたちの間で最有力の説となっている。(pp.241)

存じませんでした。 「最近読んだ本225」

つぎの例ですが、

団体勝ち抜き戦は、日本独自のフォーマットである。剣道では江戸後期に、柔道では明治時代に始まった。
勝ち抜き戦は、体重無差別の思想と深く結びついている。(pp.414)

これも初耳。

引用文をお書きになるために著者は何冊の本を読まれ考察なさったのだろうと想像しました。

金原俊輔