最近読んだ本313

『世界のニュースを日本人は何も知らない』、谷本真由美著、ワニブックスPLUS新書、2019年。

谷本真由美氏(1975年生まれ)は、「日本のメディアが非常に閉鎖的である(pp.5)」せいで、おまけに「そもそも日本人は海外のニュースに興味を持っていない(pp.5)」せいで、われわれが諸外国の事情に疎(うと)い……、こうした問題意識をもって所見を述べられました。

国連の専門機関で働いていらしたそうですから、氏は当該テーマに精通されているわけです。

そして上掲書が提供してくれた情報は、たしかに、わたしが知らなかったことだらけでした。

例をあげましょう。

第3章の「イギリス人、実は……あまりパブに行かない」項。

イギリスでは食生活に大きな変化が起きています。(中略)
昔のようにぬるいビールとソーセージ、フィッシュアンドチップスなどを出すような古いパブはだいぶ消滅してしまい、(後略)。
経済の先行きが不安定なためにパブでビール一杯の料金を払うのは厳しいという人がかなり増えているためです。(pp.205)

概して、わたしたちは「英国の男性はパブでビール」という先入観をもっていますが、昨今は違うみたいです。

2例目はオランダ人で、

「欧州一のドケチ大魔王」であること、そしてあまりに杓子定規で融通がきかないことです。
私の友人や元同僚も何人かオランダで働いていましたが、全員がオランダのさまざまな面に辟易(へきえき)してロンドン、ローマ、ミラノ、パリ、ニューヨークに引っ越しました。(中略)
そんな彼らが延々と語る話のなかには、オランダ人のドケチ道にまつわるネタが少なくないのです。(pp.216)

初耳でした。

わたしが住んでいたアメリカにおいて「ドケチ」で名を馳(は)せていたのはスコットランド人。

「動画のスローモーション再生を考案した発明家は、レストランで食事を終えたスコットランド人が自席からレジまで歩くときの姿にヒントを得た」というギャグを聞いたことがあります。

引用文のなかの「杓子定規で融通がきかない」で個人的にドイツを連想しましたが、そのドイツは、

成人向けの雑誌があちこちの店で堂々と売っていますし、街中にはいわゆる風俗産業のお店が並んでいます。(pp.225)

なのだそうです。

イタリア人はお風呂嫌いの由でした。

風呂には週末に入る人が多いので月曜日は爽やかなコロンの香りを漂わせた人が多いのですが、週も半ばを過ぎるころにはモワッとした体臭で顔をそむけたくなる。金曜日ともなると混雑している電車やバスの中は大変な状態になっていたりするのです。(pp.223)

入浴が週に1回だけとは……。

以上、新事実を多々教えていただきました。

世界を眺める視野が広がった気がします。

著者が訴えた「日本のメディア」の閉鎖性という案件に関しても、わたし自身懸念をおぼえています。

しかし、ふたつの疑問が残りました。

まず、著者は日本人のみが海外に関して無知であるかのようにお書きになっていますが、本書で語られたどの国においても他国のことをさほど分ってはいないのではないでしょうか。

10年間の滞米中、わたしが接したアメリカ人諸氏の外国知識は、平均的な日本国民のそれと同等か、むしろ下回ってさえいました。

つづいて、タイトル内に「世界」の語が含まれていたにもかかわらず、中身はほとんど欧米の話題ばかりだったのが、かなり残念です。

金原俊輔

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