最近読んだ本473:『独身偉人伝』、長山靖生 著、新潮新書、2021年

独身者にとっての理想、あるいは社会にとっての理想の独身者モデルは、ないものでしょうか。
本書は積極的に、独身だからこそ自分らしく生き抜いた人々を取りあげました。その精神と戦略を学びたいと思ったからです。(pp.199)

長山氏(1962年生まれ)は、結婚しなかった東西の偉人たちの人生を子細に調べ、読者に紹介してくださいました。

本をひらいてページを繰りだすと、わたしが初めて接する話題がつぎつぎ登場してきます。

たとえば、英国女王エリザベス一世(1533~1603)の場合、政治的な思惑で結婚を回避していた由で、彼女のそんなありかたは、

賞賛の的となっていき、彼女は「処女王(ヴァージン・クイーン)」と呼ばれるようになっていました。(pp.169)

つきあう男性は複数名いたらしく、うち、ひとりがウォルター・ローリー卿(1554~1618)。

ローリーは(中略)冒険心に富むところもあり、北アメリカに英国の最初の植民地を拓き、処女王にちなんでバージニアと命名しました。今日のアメリカ合衆国バージニア州の起源です。(pp.170)

知りませんでした。

つづいて、詩人の立原道造(1914~1939)は、勤務先のアサイという同僚女性に恋愛感情をいだいた模様です。

しかし、自身がわずらう結核を「愛する人に(pp.61)」感染させてはいけないと考えたこと、また、おのれの死期がせまっていると予想していたこと、こうした事情の結果「結婚話に進むのを逡巡してばかりいた(pp.61)」。

彼はやがて病気が重くなり入院します。

病床には立原の母ではなく、水戸部アサイが詰めました。二人は正式に婚約していたわけではありませんでしたが、立原のベッドの側に薄縁を布き、毛布に包まって仮眠を取りながら、献身的に看護しました。(pp.61)

まもなく没しました。

『独身偉人伝』ではこのとおり印象的なエピソードが目白押しです。

くわえて、職業別「結婚しない理由(pp.28)」すら解説されました。

いくつかを見てみましょう。

宗教家は、

結婚とは数ある異性の中から「特別なひとり」を選ぶこと。それはある意味、あまねくすべての衆生(しゅじょう)を救うという高邁な宗教的理想とは相反するものでした。だから仏教の高僧もキリスト教の聖者も、大概独身だったのです。(pp.64)

学者だと、

考え続ける時間は欲しい。他者に乱されない静謐な生活環境こそが理想。当然ながら、妻子に煩わされたくないのです。(pp.84)

芸術家は、

精神だけでなく、社会秩序からの自由も求めるので、その人生は型破りになりがち。冒険とか放浪とかする人も多い。だから独身者も少なくありません。(pp.122)

どれも大枠をとらえてはいるのでしょうが、一般化しすぎているような。

おまけに学者は男性という古くさい前提があるみたいですし……。

本書の瑕瑾(かきん)かもしれません。

もうひとつ、第4章を例に用いながら説明すれば、同章では科学者アイザック・ニュートン(1642~1727)のことが語られていたものの、彼の良いところのみに焦点が合わせられ、奸悪な面の描写はまったくありませんでした。

多数の人々をあつかったため、各人について詳述するスペースが不足してしまったのでしょうか。

とはいえ『独身偉人伝』は、読む者を「独身って、あんがい悪くないな」との読後感にいたらせる、静かな力を有していました。

金原俊輔