最近読んだ本485:『世界のニュースを日本人は何も知らない 3』、谷本真由美 著、ワニブックスPLUS新書、2021年

かつて国連職員でいらした谷本真由美氏(1975年生まれ)による『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズの第3弾です。

第1弾「最近読んだ本313」および第2弾「最近読んだ本395」については、すでに書評を掲出しました。

そして本書。

前2作とおなじく意想外の情報が多々書きこまれており、前2作とおなじく共感や疑問をおぼえる情報が其処此処(そこここ)にありました。

以下、共感・疑問のうち、3つを選んで私見を述べます。

まずは東京オリンピック。

日本のマスコミの方から「イギリスはじめヨーロッパでは東京オリンピックがどんなふうに話題になっていますか」と多くの問い合わせをいただきましたが、実際はほとんど騒がれていませんでした。(中略)
それは、イギリスをはじめヨーロッパではオリンピック自体が世の中で話題になるイベントではないからです。(pp.48)

当方がよく知っている外国はアメリカ合衆国だけなのですが、アメリカもまさに引用文のとおりでした。

わたしは11年近く同国に住み、そのあいだのオリンピック開催は複数回。

しかし、アメリカ社会が全体的にオリンピックを軽視しているため、所属大学院や実習先で全然話題とならず、わたしの場合、オリンピックが開かれていることに気づかなかったほどです。

一般の欧米人がオリンピックに冷淡な理由のひとつは「オリンピックの起源は貴族のお遊び(pp.51)」だったからという著者のご指摘に「なるほど」と膝を打ちました。

つぎです。

谷本氏は、ヨーロッパに「日本の侍の甲冑や刀にはまってしまう(pp.96)」人々が存在している、と紹介したのち、

現在の日本では、そのような素晴らしい日本の文化に対して目を向ける人があまりいません。ヨーロッパの人々が日本に出かけると、美術館や博物館での甲冑や日本刀の扱いが小さいことにビックリする。(pp.96)

こう懸念をしめされました。

氏は日本の最新事情にも十分目配りしつつ『世界のニュース~』シリーズを執筆していらっしゃり、けれども、たまたま、昨今のわが国における「刀剣女子」をご存じなかったのでしょう。

刀剣女子は『刀剣乱舞』なるゲームをきっかけに日本刀の世界に入った女性を指します。

彼女たちの刀にたいする情念や知識はすごいらしく、つまり日本文化にしっかり目を向けているわけで、しかも、この領域におけるヨーロッパの「マニアック(pp.96)」な皆さまの総数よりはるかに刀剣女子のほうの数が多いと想像されます。

したがって、ご心配の必要はありません。

最後になります。

インドとバングラデシュでも放送されており、大人気の『ドラえもん』ですが、なんとバングラデシュではヒンディー語の吹替版が放送されています。ところが、子どもたちがベンガル語のかわりにヒンディー語が流暢(りゅうちょう)になってしまうのが問題視され放送が禁止されてしまったのです。(pp.216)

ヒンディー語はインドの言葉、ベンガル語はバングラデシュの言葉。

インドとバングラデシュは不仲ではないものの、悪からぬ外交関係はさておき自国語を大切にしたいというバングラデシュの方針なのでしょう。

真っ当です。

正反対の、本邦で過去幾度か浮上した亡国の愚案「日本語廃止論」(たとえば森有礼や志賀直哉が主張)を想起し、比較せざるを得ませんでした……。

他の良書に負けず劣らず、『世界のニュース~』は、多様な事柄に思いをめぐらす読書体験を提供してくれる、刺激的な読物と考えます。

金原俊輔