最近読んだ本520:『ルポ 池袋アンダーワールド』、中村淳彦、花房観音 共著、大洋図書、2022年

わたしは昨今、東京へ出張した折には池袋駅東口側のビジネスホテル「ホテル グランドシティ」を定宿とするようになりました。

同ホテルが安く、清潔、朝食は豪華、周辺に飲食店がひしめき、大型書店「ジュンク堂」や大型新古書店「ブックオフ」も近い、ためです。

池袋は駅から近い宿の値段がそう高くもなく、安い飲食店も多く、私にとってはかなり過ごしやすい場所だ。(pp.16)

まさにそのとおり、個人的に新宿だの渋谷だのに向かう気がしません。

ジュンク堂書店池袋本店は、エロ本以外のあらゆる分野の書籍が販売されている。一般的な書店にはない学術書も揃い、昼間は大学生や知識層が集う。(pp.36)

ジュンク堂書店には心理学の専門書がたくさん並び、大学教員時代、ここで探せば必ず良い本を見つけることができて、助かっていました。

むかし約13年間東京都民だったころは時たましか池袋に行こうとしなかったのが、いまや望んで赴いており、いつしか「池袋にいると安心する(pp.183)」ひとりとなっているのです。

そんなわたしですから『ルポ 池袋~』をワクワクしつつ繙(ひもと)きました。

中村氏(1972年生まれ)と花房氏(1971年生まれ)の、同学年で親交もあるおふたりが各章を交互に執筆されています。

著者たちは、池袋の「闇(pp.7)」「重苦しい空気(pp.15)」「怪(pp.16)」「猥雑(pp.36)」「怪しげな人々(pp.51)」「変態(pp.103)」「事故や事件(pp.107)」を取りあげられ、つまり、けっして明るい内容の本ではありません。

貧困、売春、犯罪、死、といった重たい話が続出します。

わたしがくわしくない池袋の一面であり、知っていたのは下記のほう。

中池袋公園は腐女子たちの憩いの場となって、南池袋公園は家族連れやカップルが集っている。再開発前だったら考えられなかった家族やカップルの団らん、女性たちの笑顔があふれる雰囲気となっている。(pp.50)

華やかさと暗さを併せもつ点が池袋の魅力なのでしょうし、あれこれをグイッと呑み込んでいるところに池袋の懐(ふところ)の深さを感じます。

振り返れば、かつて住んでいた米国サンフランシスコ市もまたそうでした(というか、米国のほとんどの大きな街がそんなふう)。

さて、中村氏は「風俗嬢だけでなく、放浪する街娼、貧困女性、ホームレスと、苦境に陥る女性たち(pp.101)」を取材なさり、どなたもが「事情を抱えて(pp.101)」いらっしゃる、と指摘したのち、

事情とは発達障害だったり、知的障害だったり、精神病だったりだ。昼間の仕事で働きたくても、健康的、能力的に務まるのはホンの一握りしかいない。(pp.101)

かく述べられました。

引用の件は以前より精神科医療および心理臨床の世界でまことしやかに囁(ささや)かれていて、わたし自身、類似のコメントを耳にした記憶があります。

ですが、おそらく学術データの裏づけは不十分なはずで、仮にデータがあるとしても氏の文章は無遠慮すぎるのではないでしょうか?

もしも、ご病気・障害の結果「できればやらないほうがいい仕事という認識がない(pp.241)」人々がおられる場合、関係者や関係機関が成人教育などの方法を用い認識を与えるべき、と考えます。

金原俊輔