最近読んだ本525:『土曜はカフェ・チボリで』、内山純 著、創元推理文庫、2022年
ふとミステリーを読みたくなり、上掲書を選びました。
選んだ理由。
50年ほど前、長崎市に「チボリ」という喫茶店(カフェ)があって、そこで働いていらしたウェイトレスさんに熱をあげたわたしは、せっせとお店に通い、毎回遠目からうっとり……、結局なんの発展もありませんでしたが、『土曜は~』のタイトルを見た途端、わが若かりし時代を懐かしく想起したのです。
光陰矢の如し、また、少年老い易く学成り難し。
さて『土曜はカフェ・チボリで』は、いわゆる安楽椅子探偵譚です。
探偵役があちこち出歩くのではなく、カフェの中だけで推理が進行します。
この本の場合、安楽椅子に腰かけた一人の名探偵が鋭い頭脳で快刀乱麻を断ったりはせず、主役・脇役陣がデニッシュだの紅茶だのを堪能しつつ知恵をしぼり、お互いの考えを交換して、謎にせまる形式でした。
わたしでしたら、入店するや顔見知り同士で会話が始まるようなカフェは敬遠しますけれども、小説で読む分にはむしろ楽しかったです。
チボリとは、デンマークの首都「コペンハーゲンにある公園の名前で、世界最古のテーマパークです。(後略)(pp.51)」。
デンマークの美術品や料理が本書ストーリーを彩り、著者(1963年生まれ)の同国への傾倒ぶりが窺えました。
土曜日ごとにお客の皆さんが対応するのはごく日常的な事件。
殺伐としたできごとは起こりません。
ところで、常連に、如月文江(きさらぎ・ふみえ)さんという女性がおられます。
「如月さんもお仕事をされているのですか」
「大学で」彼女はつんと顔を上方に向ける。「言語学を教えておりました」(pp.24)
登場してきた当初こそ取っつきにくそうなキャラだったものの、やがて他の客たちと打ち解け、喜ばしく思いました。
しかし、如月さんのご発言をお聞きするに、彼女の専門は言語学というより日本語学(国語学)みたいな気がします。
著者は言語学にくわしくなかった?
どうでもいい感想であることは承知しています。
さすがにミステリーの書評で筋を書くわけにはいきませんので、こんな感想を述べてお茶を濁しました。
おっとりした雰囲気の作品であり、もっとカフェ・チボリでおこなわれる推理に付き合いたいという願望が生じました。
金原俊輔