最近読んだ本526:『フィンランドは今日も平常運転』、芹澤桂 著、だいわ文庫、2022年

アメリカ合衆国に住んでいたころ、友人から「日本とフィンランドって、ちょっと似ているよね」と言われたことがあります。

想定外のコメントだったうえ、当時のわたしがフィンランドに関してもっていた知識は「ムーミン」や「サウナ」程度だったため、返答に窮しました。

やがて「日本-フィンランド類似論」がそれほど突飛ではない見解と知りました。

欧米人たちが有している、国々に対する固定観念のひとつであるみたいです。

もっと高頻度で耳にした日本関連の固定観念は「日本とドイツは似ている」「日本とイギリスは似ている」「ミラノなどイタリア北部の都市は日独に似ている」でしたけれど……。

さて、わが国と類似している(かもしれない)フィンランド。

どう似ているのか確認しようと考え、わたしは本書をひらきました。

隣の一人暮らしのお年寄りも玄関マットの下に鍵を忍ばせていて、いざ何かあったときに誰でも入ってこられるようにしてあった(中略)。
田舎だと鍵をかける習慣さえないと聞くし、その他にも大きな植木鉢の下に鍵を隠している家庭も何軒か知っている。(pp.82)

フィンランドでは家の中で靴を脱ぐ。靴を脱ぐ文化は日本だけではないのである。(pp.137)

似かよっていると思われた箇所は上記ふたつだけ。

夫にフィンランドでモテるのはどういうタイプか聞いてみた。モテるタイプではない夫は少し悲しそうに遠くを見ながら「スポーツ系、高身長、話がおもしろいやつ、かな。まともな仕事があってアルコール依存がなければ尚可」と教えてくれた。(pp.196)

これは、日本も含め、世界中であまねく見られる現象でしょう。

『フィンランドは今日も~』では、かの国と日本は異なっているという結論につながるエピソードのほうが続出しました。

バスに(中略)客が座るまで発車しないなんて優しさも運航計画もはなからなく、客が乗り込んだらさっさと発車するし、ベビーカー用のスペースがあるのはありがたいけどベビーカーの車輪ロックをする前に走り出すのはざらだし、なんなら今日の運転手は停車後、バス中ほどにある降車ドアが完全に締まる前に発車した。(pp.67)

「運航計画」は「運行計画」の誤りでしょうが、いずれにしても日本のバスと違い、あちらでは丁寧さ不足のようです。

お家ツアーとなった。(中略)
これはフィンランドにある謎の習慣で、自宅に誰かを招きその人が初訪問だった場合、家の中をぐるりと見せるのが普通のようだ。(pp.109)

「お家ツアー」……、日本には全然ない習慣といえます。

著者(1983年生まれ)は現在、フィンランド首都ヘルシンキにご在住の女性。

配偶者がフィンランド人だそうです。

ご努力のすえ溶け込まれたフィンランド社会のあれこれをさっぱりしたユーモアでまとめられており、とても遠い国家の新奇・初耳な話題多数をわれわれ読者に提供してくださいました。

気楽に読める書籍です。

最後に余談となりますが、わたしは当コラム2行目でフィンランド名物としてムーミンおよびサウナを挙げました。

サンタクロースもフィンランド出身という通説がありはするものの、あえて言及を避けた次第です。

なぜ?

スーパースターであるサンタの起源の話となるや、それは自分のところと信じて疑わない何カ国ものヨーロッパ出身者たちが甲論乙駁しだすことを、在米時代に見聞したからです。

金原俊輔