最近読んだ本564:『左京・遼太郎・安二郎:見果てぬ日本』、片山杜秀 著、新潮文庫、2023年

小松左京(1931~2011)

司馬遼太郎(1923~1996)

小津安二郎(1903~1963)

小松はSF小説家、司馬は歴史小説家、そして小津は映画監督です。

慶應義塾大学教授の片山氏(1963年生まれ)が、小松・司馬・小津の業績を、わが国の歴史や社会に照らし合わせて検討する論考を本書で展開なさいました。

わたしは上記三者を尊敬しているため、彼らが登場する評伝またはエッセイを読む機会が多く、当コラムにおいても、

小松の場合 「最近読んだ本351」

司馬の場合 「最近読んだ本139」 「最近読んだ本544」

小津の場合 「最近読んだ本459」

複数冊、あつかっています。

そんなわけで今回、『左京・遼太郎・安二郎:見果てぬ日本』のページをわくわくしつつ開いたのですが……。

実のところ、どうにも読書に没頭できませんでした。

片山氏の話の進めかたがあまり読者フレンドリーでなかったというか、氏が知識を縦横無尽に提示なさる文章を追うだけで精一杯だったというか……、おまけにご議論がこちらの知的好奇心に響いてこなかったのです。

知的好奇心に響かなかった理由はよく分りません。

ひとつ言えるのは、片山氏の小刻みでテンポが速い筆致。

おそらく氏の「もち味」「売り」なのだろう、と想像されます。

ただ、読む側にしてみれば、疲れが結構たまりました。

失礼を承知で記しますと、本書読了後、満足感よりも副題「見果てぬ日本」ならぬ「見果てぬ本」という印象がのこって……。

しかし、中身が情報満載だったことは心から認めます。

エネルギー資源開発にたいする「小松の誤算(pp.144)」の件、司馬文学の根底に漂う「非定住者賛美(pp.315)」の件などは、著者のご指摘を受けるまで当方には思いもよらず、鋭いご指摘に舌を巻きました。

片山氏が小松の章でお書きになっていたご見解、

人類は自らを滅ぼせるほどのエネルギーを手にしてしまった。日本人はその恐ろしさを広島と長崎で痛切に経験した。だからといって反核で済むのか。「我々が反対すること」で解決する問題だろうか。原子力から日本だけが「手を引くことで無事になる」話でもないだろう。人間は一度覚えた味を忘れられはしない。引き返せない。歴史は不可逆である。(pp.83)

わたしは支持いたします。

金原俊輔