最近読んだ本565:『スマホはどこまで脳を壊すか』、榊浩平 著、朝日新書、2023年
気鋭の脳科学者でいらっしゃる榊氏(1989年生まれ)が、さまざまなデータを交えつつ、スマホそしてインターネットやゲームの害悪を論じられました。
スマホだのネットだのゲームだのはよろしくないだろうというのは多くの人々が何となく有している懸念ですが、本書では学術的な研究結果に裏打ちされた指摘がなされています。
客観性が高い内容でした。
わたしがショックを受けた文章をいくつか引用させていただくと、子どもの場合、
追跡調査の結果から、スマホを使えば学力は下がり、やめれば上がるという因果関係があることがはっきりしました。(pp.79)
インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳が全く発達していなかったのです。(pp.105)
大人の場合は、
インターネットへ依存してしまっている人たちは、アルコール依存症の患者さんと同じ程度に、衝動的で自分をコントロールする能力が低いことがわかりました。(pp.58)
解析の結果、インターネットへの依存傾向が高い人たちほど、注意欠陥(ADHD傾向)・抑うつ・社交不安・敵意などの症状が高いことを報告しています。(pp.59)
つまり、子どもであれ大人であれ、
スマホ等を使用しない、あるいは使用したとしても1時間未満にとどめる(後略)。(pp.78)
ことが大事みたいです。
『スマホはどこまで脳を壊すか』においては、以上のほか、オンライン・コミュニケーションの限界も述べられており、コロナ禍でリモートワークが普及しつつある昨今、知っておくべき問題点が複数提示されました。
ある実験で導きだされた傾向を紹介すると、
オンライン会話でも、対面での会話と同じように、情報を伝えることはできます。しかし、相手と心と心が通じ合ったり、誰かと「つながっている」ような感覚が得られたりすることはないのです。(pp.171)
そのおもな理由ですが、オンライン会話は「視線を合わせるという行為が物理的に不可能(pp.172)」なため、また、われわれの脳がオンラインで話す相手をかつて教科書の隅に落書きした「パラパラ漫画の1コマに描かれたキャラクターの1人としか(pp.177)」受けとめないため、だそうです。
長崎メンタル社では、現在、どうしても避けられない状況を除いてオンラインを介したカウンセリングをおこなっていません。
本書を読んで、間違った方針ではなかったと思いました。
カウンセリングとは「相手と心と心」を通じ合わせるべきものだからです。
『スマホはどこまで~』は、脳科学の最新情報、生活に密着する有益な情報、を与えてくれる一冊。
巻末に「参考文献」が明示されており、いかにも研究者が執筆なさった専門書籍らしくて、わたしは好感をもちました。
金原俊輔