最近読んだ本579:『国難のインテリジェンス』、佐藤優 著、新潮新書、2023年
上掲書は、博覧強記の著述家である佐藤氏(1960年生まれ)が「高度な学知や芸術的才能を現実に生かす類い稀な才能を持った人々(pp.5)」全14名と対談した、「知的刺激に富む(pp.5)」作品です。
数学、土木工学、人口学、経済学、経営学、会計学、医学、などの専門家が登場し、教育者や仏教者や作家も話し合いの席につきました。
「国難」という同一テーマで、このように多数の論者が意見を述べると、随所で似かよったご主張が出てきて、それにより主張の説得力が増します。
例を示しましょう。
「『老大国』日本が目指すは『成長』でなく『成熟』(pp.245)」章で、作家の五木寛之氏(1932年生まれ)は、日本の将来が、
五木 頂上からゆっくり下りる時期に差し掛かっていることは、ちっとも悲しむべきことじゃない。大英帝国も無敵艦隊のスペインも、あるいはポルトガルも、かつては世界を制したような国じゃないですか。それがゆっくりと成熟していって、現在の国になっている。(pp.249)
下降してゆく趨勢を受け入れるべきとご提言。
数学者かつ人工知能研究家の新井紀子氏(1962年生まれ)は、別の章におけるまったく異なるやりとりの最中、佐藤氏に、
新井 低成長社会でまったり生きていくにも、そこそこお金は必要です。(pp.17)
五木氏・新井氏がおっしゃる「ゆっくり下りる」「低成長社会」は類似していて説得力を有し、わたしも、わが国は早晩そうなるのだろう、避けられないんだろう、と納得せざるを得ませんでした。
私見を付け加えれば、「そこそこお金は必要」な現実のもと、国をあげての経済的努力が停滞してしまったら「ゆっくり」ではなく急降下または大転落するのではないか……、こう懸念します。
ところで、前述の新井氏、現代社会の見えない仕組みに関するご指摘が鋭く、
新井 ここにスマホがありますね。この中のさまざまな機能やダウンロードしたアプリを使いこなしているという人たちがいるじゃないですか。
佐藤 何でもスマホでできるという人たちですね。
新井 それがすごいことだと思っているかもしれないけど、違います。あなたは大衆としてスマホを持たせられて、資本家が必要とするデータを集めるために、毎日持ち歩き、さまざまなデータを提供しているだけなんですよ、と言ってあげたい。(pp.23)
たしかにそうですね。
以上、『国難のインテリジェンス』は、読了後もじっくり考えるべき問題提起だらけ。
ページごとに「知的刺激」を受けました。
なお「国難」とあまり関係ない話ながら、経済学者の中谷巌氏(1942年生まれ)は、
中谷 一昨年(2019年)秋、世界中の数百という占い師に、翌年に何が起きるか占ってもらったら、疫病が流行ると言う人は一人もいなかったそうです。(pp.77)
占い師のみなさんは新型コロナウイルス感染症の世界的流行を予想できなかったわけで、占いを信じないわたしが「さもありなん」と頷(うなず)く情報です。
金原俊輔