最近読んだ本578:『大谷翔平とベーブ・ルース:2人の偉業とメジャーの変遷』、AKI猪瀬 著、角川新書、2023年

わたしがアメリカ合衆国に住んでいた時代、野茂英雄投手(1968年生まれ)がメジャーリーグにやってきて活躍しだし、野球好きな一般のアメリカ人だけでなく、日系アメリカ人をも熱狂させました。

そのころ、わたしには親しい日系のかたがたがたくさんいて、みなさま、むかしはアメリカの敵対国だった日本の若者がアメリカ人の大声援を受けている状況を、随喜の涙を流さんばかりに喜んでいたのです。

アメリカの戦時政策により強制収容所に入れられたことすらある日系人たちには深い感慨が生じたでしょう。

つづいてイチロー選手(1973年生まれ)が渡米したときには、当方はすでに日本へ戻っていたものの、彼の止まらない快打をニュースで知るにつけ、日系アメリカ人が有頂天になっているだろうと想像し嬉しくなりました。

大谷翔平選手(1994年生まれ)が投打で実績を積み重ねている昨今も、わたしの中でおなじ反応が起こります。

さて、二刀流の始祖ベーブ・ルース(1895~1948)と100年後に登場した2代目二刀流の大谷選手とを比較するスポーツエッセイであり、また、メジャーリーグの歴史を整理したスポーツ史書でもある、『大谷翔平とベーブ・ルース』。

アメリカ在住の著者(1970年生まれ)は、日系アメリカ人ではなく日本人男性なのですが、

本当に誇らしい。(中略)「ルースと大谷」は、今後、何百年も野球ファンを魅了し続ける存在となるはずだ。(pp.128)

と、日系人に相通ずる熱い思いを記していらっしゃいます。

楽しく読める内容でした。

それにしても、作品内で詳述されているイチロー選手と大谷選手。

84年間破られることがなかったジョージ・シスラーのシーズン最多安打記録257本は、2004年にイチローによって破られた。(pp.193)

2022年。大谷翔平が、ルース以来、104年ぶりとなる二桁勝利、二桁本塁打を記録した。(pp.4)

ふたりを語るには約1世紀前のプレーヤーあるいは数字を引っ張りだしてこなければならず、両者が成し遂げたこと、成し遂げようとしていることは、かくもすごいわけです。

「本当に誇らしい」。

なお、大谷選手の投手としての奪三振数は『大谷翔平とベーブ・ルース』が出版された直後の2023年5月、ベーブ・ルースがもっていた記録501を超えました。

そして登板のたびにルースとの差を広げつつあります……。

以下、話は大きく変わるのですが、わたしの幼少期(1950年代後半から1960年代前半)、ベーブ・ルースは子ども向け偉人伝シリーズの常連でした。

日本社会がエジソンやキュリー夫人やヘレン・ケラーや野口英世らへの敬意と同等の敬意を彼に払っていたのです。

この偉人伝シリーズ、現在も出版されているのでしょうか?

人生においては努力が大事である、しかし、努力したとして誰もがキュリー夫人だのベーブ・ルースだのにはなれない……、子どもたちがこうした現実を認識する良い契機になると考えますから、いまだシリーズが出版されつづけているよう祈念いたします。

金原俊輔