最近読んだ本623:『アニメ大国 建国紀 1963-1973: テレビアニメを築いた先駆者たち』、中川右介 著、集英社文庫、2023年
わが国はいまや世界に冠たるアニメ大国です。
中川氏(1960年生まれ)は、そうした日本アニメの黎明期1963年から目下の隆盛の礎となる1970年代までの状況を徹底的に調べ、明らかになった事柄を読者に示してくださいました。
登場人物は、手塚治虫(1928~1989)を筆頭とするマンガ家諸氏および宮崎駿氏(1941年生まれ)に代表されるアニメーターたちです。
登場作品は、『鉄腕アトム』(1963年~)に始まり『ドラえもん』『機動戦士ガンダム』『ルパン三世 カリオストロの城』(以上、1979年~)へと至りました。
登場人物も登場作品も驚くばかりの数。
本書は人や作品を解説しているだけではありません。
ときおり耳にする「アニメ制作会社の経営が厳しく、アニメーターが劣悪な労働条件で働くことになったのは、手塚治虫のせい(pp.169)」なる誹謗をくつがえす資料を提出したり、業界に巣食っていた怪しげなフィクサーの存在を公にしたり、欧米の小説のアニメ化交渉が一筋縄でいかず、いかないどころか原作者が日本人交渉者に会ってもくれなかったトラブルを追ったり……、諸々の話題が盛り込まれていました。
アニメ史の決定版みたいな本です。
ここで個人的な思い出をふたつ記しますと、まず、当方が記憶している相当古い国産アニメ映画は、本書101ページや172ページで触れられた、東映動画の『わんわん忠臣蔵』(1963年)。
長崎市ではなぜか映画館でなく企業の会館で上映され、小学3年生だったわたしはクラスの友人とふたりで観にゆきました。
深く感動し、60年経っても主題歌を歌えるほどなのですが、『アニメ大国 建国紀~』はこの名作のストーリーや反響に言及しておらず、落胆しました。
つぎに、わたしが最も見逃さないよう気をつけていたテレビアニメは、東京ムービー制作『ルパン三世』(1971年~)第1シリーズです。
ところが、
視聴率は一桁台だった。「良い子」の見る『アンデルセン物語』に、不良感度の高い『ルパン三世』は惨敗した。(pp.439)
知りませんでした。
次元大介・石川五右エ門・峰不二子といったクセのある面々とルパン三世とのあいだの信頼、敵でありつつもルパンらが抱いている銭形警部へのリスペクト、そこはかとなく感じられるセンチメンタリズム、などが良かったのに……。
それはさておき、末尾の「解説」にて、中川氏より2歳お若い映画評論家の樋口尚文氏(1962年生まれ)は、
たまさか国産テレビアニメの草創期~成長期(中略)の伴走者となってしまった中川氏や私のような「テレビっ子」たち(後略)。(pp.569)
今こうして当時の番組状況を再確認すると、これで「テレビっ子」になるなという方がもはや理不尽で、これほど充実した作品群が押し寄せてくる誘惑を回避するのは無理というものだろう。(pp.570)
と、述べられました。
前者の「伴走者となってしまった」は、1955年に生まれたわたしにも当てはまるうえ、わが世代はまさしく後者「これで『テレビっ子』になるなという方がもはや理不尽」を体験しています。
手塚の虫プロダクションが制作したテレビアニメ『鉄腕アトム』(中略)。子どもたちは大喜びした。旧体制の人びとには理解されない。新世代の少年少女のみがその革命を支持できる。かくしてアニメーションは概念すら変わり「アニメ」となる。(pp.38)
わたしは現在、アニメを視聴する趣味が消え失せ、マンガのみをせっせと読んでいます。
そんな風なのですが、今回『アニメ大国 建国紀~』をひもといた結果、自分や同級生たちが偶然アニメの発展と歩を共にしてきたという事実を再認識させていただきました。
われわれは、かのゴジラ(1954年生まれ)とも年齢が1歳しか違わず、恵まれた「少年少女」だったのです。
金原俊輔