最近読んだ本535:『貸本屋とマンガの棚』、高野慎三 著、ちくま文庫、2022年

1955年生まれのわたしは紙芝居を実体験した世代のほぼ最後尾に位置しています。

『貸本屋とマンガの棚』は貸本屋さんおよび貸本マンガを中心に、上記の紙芝居も含め、それらの盛衰を回顧する内容でした。

まずは、紙芝居。

「丹下左膳」「ライオン児」「黄金バット」「妖精ベラ」「呪い火」「こわれ人形」等々の紙芝居から、1940年代、50年代の社会相までが伝わってくるようであった。(pp.30)

わたしが存じあげていない作品ばかりなものの、後年『丹下左膳』はテレビドラマで、『黄金バット』はテレビアニメで、視聴しました。

いまだ記憶している紙芝居といえば、相撲部屋に入門した主人公の少年が先輩力士たちに可愛がられて(しごかれて)、頭から血を滴(したた)らせつつおにぎりを頬張るシーン。

当時4~5歳ぐらいだったわたしは、恐怖のあまり「相撲取りにだけは絶対なるまい」と心に誓いました。

少年が出世して横綱を張ったことを祈ります……。

紙芝居は1950年代なかばごろ「急速に衰退していった(pp.38)」らしく、「映画と貸本マンガの隆盛(pp.38)」がその原因でした。

そして本書の話題は貸本屋さん・貸本マンガへと進みます。

これこそがメインテーマですので十分すぎるほど調べが行き届いており、貸本屋の「貸出票が物語るもの(pp.304)」といったわれわれ読者が必要としていない周辺情報すら詳しく書き込まれていました。

貸本マンガが登場したのが1953年である。そして、消滅したのが67、8年である。ということは、貸本マンガは、わずか15年ほどの命にすぎなかったのである。(pp.263)

念のため説明しておきますが、貸本マンガというのは「貸本屋向けのマンガの新刊(pp.11)」を意味し、かつて貸本屋は書店で販売されている一般マンガとは異なる貸本マンガを多数所蔵していたのです。

貸本マンガが姿を消したのちも貸本屋は生き長らえ、子どもらに一般マンガを貸しつづけました。

長崎県に住むわたしの場合、20世紀末ぐらいまで自宅近所に貸本屋さんがありました。

新古書店をも視野に入れれば、2020年代の初めごろ、依然その種のお店が残存しており、わたし自身ときどきマンガを借りていました。

ところで『貸本屋と~』を読んでいて驚いたのは、

貸本少女マンガは貸本マンガ全体の6割近くを占めていたと思われる(後略)。(pp.146)

さらに「貸本専用の小説(pp.272)」もあって、

60年前後、こうした貸本小説が貸本屋の棚の半分を占めていた(後略)。(pp.276)

なのだそうです。

知らなかった史実(わたしにとっては同時代の事柄)をたくさん知ることができました。

もともとは貸本マンガ家だった、水木しげる(1922~2015)、白土三平(1932~2021)、さいとう・たかを(1936~2021)、つげ義春(1937年生まれ)、等々が、貸本マンガから離れ、一般マンガや劇画の世界に進出して頭角をあらわしました。

小島剛夕(1928~2000)、佐藤まさあき(1937~2004)も、忘れられません。

本書をとおし貸本マンガが果たした文化的役割の大きさを認識させられました。

金原俊輔