最近読んだ本643:『バカ老人たちよ!』、勢古浩爾 著、夕日新書、2024年
わたしはこれまで勢古氏(1947年生まれ)のご著書をかなり読んできました。
率直なご意見に溜飲が下がる場合が多く、また、社会認識が深まる話題も豊富だったからです。
インテリっぽさを前面に押し出してこない文章をお書きになるため、読んでいて疲れないですし。
そんな氏も、はや77歳。
押しも押されもしない老人だ。(pp.133)
本書は「老人」である著者の視点から他の老人たちのバカな言動を糾弾した、生きかた論みたいな読物です。
市井の高齢男女および有名人・芸能人らが糾弾の対象となりました。
栃木県佐野市、83歳の僧侶が、30代女性に座禅で使う警策を使ってわいせつ行為をした。(中略)
千葉では「ルパン」と称している(アホだ)73歳の男が、除霊とだまして60代女性にわいせつ行為をした。
もうどいつもこいつも、なにやってるんだ?(pp.64)
こんな風に愚劣で不快な事案がつぎつぎ出てきます。
そのなかで、
バカ老人の最高峰?
だれだ?
もったいぶらず、すぐいってしまう。
黒岩祐治神奈川県知事である。
2023年4月に『週刊文春』にすっぱ抜かれた不倫下司メールで世間を騒がせた。
わたしは昔から、この男が好きではなかった。(pp.44)
2024年現在において69歳の神奈川県知事を「バカ老人の最高峰」と見なすのは勢古氏のご自由であり、同知事への唾棄したくなるお気もちも理解できます。
とはいえ、黒岩知事事件以降もバカ過ぎる地方自治体首長が踵(きびす)を接して登場し、国政にまで範囲を広げれば一騎当千の輩だらけとなって、「最高峰」をわずか1名に絞り込めません。
嬉しくない悲鳴をあげたくなる状況で、まことに遺憾……。
この種の本は読んでいる最中、不快感が高じ、ややもすればページを繰りつづけるのが嫌になってしまうのですが、著者はそれがご心配だったのでしょう、最終章に一服の清涼剤となるような話をもってこられました。
それは、司馬遼太郎(1923~1996)が執筆した紀行における、ある母と息子のあいだの小さなできごとです。
勢古氏は、
これほどまでに、人間のしあわせの時間の真実を描いた文章を知らない。(pp.199)
と、絶賛なさいました。
当方もむかし同作品を読み、氏が取り上げられた箇所は強く印象に残ったので、「勢古氏もそうだったのか」と嬉しく思います。
『バカ老人たちよ!』第3章内の「母に申し訳ない」項にも心に沁みるエピソードが記されており、わたしは、この項はもしや司馬遼太郎の佳作を語るために勢古氏が用意した伏線だったのかもしれない、と想像しました。
金原俊輔