最近読んだ本600:『元ヤクザ弁護士』、諸橋仁智 著、彩図社、2023年

諸橋氏(1976年生まれ)は、約10年間ヤクザだった時期があり、背中に刺青も入れているそうなのですが、更生し、司法試験に合格され、いまは弁護士としてご活躍中です。

その体験記が上掲書でした。

ヤクザ稼業にもいろいろな種類があるらしく、往年の氏はおもに「シャブ屋(pp.64)」。

ご自分もシャブを常用しだして、第3章「覚醒剤に溺れる(pp.65)」によれば、

注射でやるようになってから頭がおかしくなるまでは、あっという間だった。およそ1年間くらいだ。
注射ユーザーによくあることだが、だんだん血管が逃げるようになってなかなか針が刺さらない。(pp.85)

シャブにボケると頭の中の管理機能が完全にイカれて、あり金全部をすぐに使ってしまう超浪費家になった。
ポーカーゲームに熱中して何十万もつっこんだり、いきなりセルリアンタワーホテルの5万くらいの部屋に一人で泊まってみたり、とんでもない浪費をした。(pp.92)

確実にあらわれていた症状は、幻聴だ。(中略)
一人で部屋にいるはずなのに、「今日はテレビ見ないの?」とすぐそばから声が聞こえてくる。鳥肌をたてながら「隣の部屋の声かな?」なんて思っていると、「隣の部屋じゃないよ」とまた聴こえてくる。(pp.97)

とうとう「覚醒剤の使用罪(pp.122)」で逮捕されました。

裁判になり、

判決は、懲役1年6月執行猶予3年だった。(pp.131)

有罪……、どん底まで沈んだわけです。

しかし、裁判の前後から宅地建物取引士(当時は「宅地建物取引主任者」)資格試験のご勉強を始められて、苦労のすえ取得。

ほどなく司法書士試験にも合格なさり、最後に(法科大学院で学ばれたのち)司法試験に挑んで「1発で合格できた(pp.81)」。

たいしたお力です。

いったん覚醒剤をやめても堪えきれず再使用してしまう依存症者が多い状況は容易に想像できます。

諸橋氏の場合は、

もし、「司法試験を目指す」という目標がなければ、ヤクザやシャブの仲間に連絡をとって東京に舞い戻っていたと思う。あせって仕事につかないで資格の勉強をしたことが、結果的に僕をシャブから守ってくれた。(pp.140)

再使用予防のみならず人生を好転させる目標をおもちになりました。

起死回生のご発意です。

過去、わたしは反社会的であった人物が発奮し司法試験を突破した実話、

・大平光代 著『だから、あなたも生きぬいて』、講談社(2000年)

・金崎浩之 著『ヤンキー、弁護士になる』、講談社(2004年)

以上2冊を読みました。

いわゆる「反社」勢力から被害を受けた(受けている)罪のない方々があちこちにいらっしゃるのですから、大平氏・金崎氏・諸橋氏のご発展を手放しで祝うわけにはいきません。

諸橋氏ご自身、「ここに書けないようなことも散々した(pp.54)」と認めておられますし。

それでも、やり直そうと決心して本当にやり直しを達成した元アウトローたちがいる事実を知るのは、いち市民として喜ばしいことであり、いま現在、世間の裏側に身を置いている誰彼をさぞかし勇気づけることでもある、と言えるでしょう。

わたしは『元ヤクザ弁護士』を読み、人間のたくましさや人生のおもしろさに思いがおよびました。

なお、本書には、読書は時に人生を変える、学校の落ちこぼれは案外伸びる……といった、当方の持論に合致するエピソードが含まれています。

金原俊輔