最近読んだ本664:『頼清徳:世界の命運を握る台湾新総統』、周玉蔲 著、産経新聞出版、2024年

頼清徳氏(らい・せいとく、1959年生まれ)は、2024年5月、台湾の第8代(第16期)総統に就任された人物です。

もともと内科の医師でいらっしゃり、政界に転身なさってからは台南市長や台湾行政院長(首相に相当)、さらに台湾副総統、を務められました。

「頼神(P. 141)」「ミスター・ベースボール(P. 156)」「台独金孫(独立運動のプリンス)(P. 187)」などのニックネームをおもち。

『頼清徳』は、この頼総統のお人柄そして業績を語った本でした。

かなり主人公寄りの書きかたで、また、かなり親日的な書きかたで、著者の周玉蔲氏(しゅう・ぎょくこう、1953年生まれ)は話を進めておられます。

頼清徳は日本記者クラブの会見で、このように話している。「私が小さい頃、大人たちは、大きな困難に見舞われた時には、常に『死んでも退かない日本精神を持て』と言っていたので、私はこの頃から日本に非常に興味をもっていました」(P. 44)

安倍元首相死去のニュースが台湾に届いた日、頼清徳は悲しみに暮れた。(中略)
台湾の現職副総統が日本を訪問すれば、中国が激しい抗議をするのは必至だ。日本政府はこの点を事前に考慮しつつ、頼清徳の東京入りと葬儀への参列にゴーサインを出した。頼も蔡英文総統に報告して承認を得た後、速やかに「極秘任務」を遂行した。(P. 48)

2024年1月1日、石川県の能登地方でマグニチュード7.6の地震が発生した。(中略)
頼は「100年前、石川県出身の八田與一技師が、国籍を問わず、すべての人を平等に愛する精神を持ち、台南の烏山頭ダムと嘉南大圳に命を捧げ尽力しており、台湾の人々から愛されて、今もなお感謝の気持ちを持っています」と思いをつづり、「台湾人はその恩返しをします」と強調した。この時点で台湾市民の自発的な寄付は25億円に上り、政府からは救援や復興費用に6000万円を寄付したことを説明。(P. 50)

日本・台湾の絆は強固ですから、驚きの文章ではありません。

それでもやっぱり日本人として感動させられます。

感動といえば、

頼清徳が自分の生い立ちを明かすようになったのは、最近のことだ。幼い頃に父親を事故で失い、母親がたくましく子どもたちを育てたことを説明し、「父が私に残した最大の遺産は『貧困』であることを皆さんに伝えたい」と語っている。(中略)
「台風が来たら、屋根が飛ばされたものでした。台風が去った後は……」と話した後、目に涙を浮かべて言葉を失ったこともあった。(P. 62)

上記エピソードにも感動しました。

ところで『頼清徳』には二つの特色があります。

ひとつは、頼氏の奥様にまつわる話題が含まれていたこと。

これまで「頼清徳を長年支えてきた『姿を現さない最大の支持者』、それが妻の呉玫如(P. 228)」だったそうですが、書中、彼女の来歴の簡潔な紹介とともに「上品な雰囲気を漂わせ(P. 229)」ているご本人のお写真も載っていました。

もうひとつは、頼氏に伴い副総統職に就かれた蕭美琴氏(しょう・びきん、1971年生まれ)の人物評が「番外編(P. 235)」にて述べられていたこと。

わたしは日本(兵庫県神戸市)で誕生なさったこの女性に関する知識をもっていなかったので、本書による情報をありがたく思いました。

金原俊輔