最近読んだ本677:『SHO-TIME 3.0: 大谷翔平 新天地でつかんだワールドシリーズ初制覇』、ビル・プランケット 著、徳間書店、2024年

上掲書の前作として(異なる著者が書いた)『SHO-TIME』『SHO-TIME 2.0』があるのですが、わたしの場合それら2冊は未読です。

『SHO-TIME 3.0』書は、大谷翔平選手(1994年生まれ)が、米国メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースと契約したのち、最初のシーズンで前人未到の「50-50(本塁打50本以上、盗塁50回以上)」を達成したうえリーグの本塁打王および打点王にもなるなど大躍動、2024年のMVP(最優秀選手)に選出される、ドジャースは「ワールドシリーズ」で優勝する、こうした一連のできごとを追ったドキュメンタリー。

「一連のできごと」には、大谷選手が被害者として巻き込まれた通訳者による「大型賭博スキャンダル(P. 91)」、ヤンキースを相手に闘っていたワールドシリーズ第2戦における「左肩の亜脱臼(P. 319)」といった、重たい話題も含まれます。

とはいえ、大谷ファンが『SHO-TIME 3.0』を手に取れば、読み始めてから読み終わるまで会心の笑みを浮かべつづけることになるでしょう。

わたしはそうなりました。

プランケット氏(1961年生まれ)が大谷選手の活躍に心底感嘆しているのが伝わってくるからです。

わたしが最も楽しんだのは第1章「白鯨を釣り上げる」内の「史上最大の移籍狂騒曲(P. 46)」項でした。

あるスポーツ記者が、大谷選手の移籍先はカナダのブルージェイズに決まったとの誤報を発表し、おまけに「大谷がすでにトロントへ向かう機上の人になっている(P. 47)」と続けたのです。

このとき大谷選手は搭乗しておらず、搭乗していると間違えられたプライベートジェットにはカナダ人ビジネスマンが乗っていたのですが、騒ぎのあとにその男性が発したコメントが秀逸でした。

そして、2024年4月、カナダでドジャース対ブルージェイズの試合がおこなわれた際、ブルージェイズのホームスタジアムは、

3万9688人の満員御礼となり、ファンたちは捨てられた恋人のような態度で大谷を待ち構えていた。
4月26日の連戦初戦に大谷の名前がアナウンスされた瞬間、そして初打席に入った瞬間、スタジアム全体が彼に大ブーイングを浴びせた。
良くも悪くも盛り上がりが最高潮に達したところで、大谷はこのブーイングに対して本塁打で応えた。そして、ブーイングの音量はさらに大きくなった。(P. 154)

痛快至極。

誤報は大谷選手にまったく罪がないことでしたので、当方、安心して引用文を読みました。

また、これほどまでムキになるカナダの野球ファンたちに、好感をおぼえます。

大谷選手という、もはやスポーツの歴史を飛び越えて日本史それ自体にお名前が残りそうな人物を、プランケット氏がユーモラスな文章を散りばめつつ語ってくださった作品でした。

コメディ小説家なみのユーモラスぶりとまでは言えないにせよ、なにしろ大谷選手が「史上最高の野球選手(P. 328)」であるため、われわれ日本人は誇らしく、ちょっとした記述にすらくすぐられ、ニコニコしてしまうのです。

たとえば、

スプリングトレーニングが始まって数日のうちに、大谷翔平の取材におけるルールが明らかとなっていった。

・ルールその1: もし大谷が何かをすれば、それはニュースである。

・ルールその2: もし大谷が何もしないのであれば、それもまたニュースである。(P. 14)

金原俊輔