最近読んだ本704:『21世紀の独裁』、佐藤優、舛添要一 共著、祥伝社新書、2025年

外務省ご勤務ののち作家に転身した佐藤氏(1960年生まれ)、学者出身で厚生労働大臣や東京都知事を歴任された舛添氏(1948年生まれ)。

上掲書は両者による往復書簡形式の政治評論です。

かならずしも「独裁」だけが語られたわけではないものの、興味を喚起される話が間断なく出てきました。

たとえば、2025年9月現在の内閣総理大臣・石破茂氏(1957年生まれ)にまつわるエピソード。

舛添  日米首脳会談(現地時間2025年2月7日)やトランプとの共同記者会見を見るかぎり、二人は意気投合したようです。
石破さんは敬虔(けいけん)なクリスチャンですね。(P. 89)

佐藤  石破さんは日本キリスト教会世田谷伝道所(現・世田谷千歳教会)で日曜学校の教師を務め、聖書を教えてもいました。
あまり知られていませんが、石破さんはあだむ書房という出版社から宗教書を5冊も出しています。(P. 91)

信心があつく宗教書を出版したことすらある人物が総理大臣を務めているという事実に驚きをおぼえます。

佐藤  同じ信仰を持つ者同士、心が大きく共鳴し合ったのでしょう。(中略)
トランプからすると「俺が神に選ばれた人間であることをわかっているシゲル・イシバも、神に選ばれているのだ」という認識になります。(P. 95)

どんな宗教に帰依しているかによって相手に親近感を抱いたり敵意をもったりするのは世界中で見られる現象。

もし石破氏の信仰が日本の国益につながるのでしたら活用していただきたいと願います。

いっぽう、佐藤氏・舛添氏は、中国とロシアに対し、

舛添  中国当局(中略)の「監視」による独裁は、国民に便利さと治安の良さをもたらし、同時に独裁権力にとっても、効率的な思想・言論統制と国家統治の手段であるわけです。つまり、監視社会であるがゆえに先端技術が発達した。その技術のおこぼれにあずかった市民が喜んでいる ― というのが、私の見立てです。(P. 20)

佐藤  22年ぶりにモスクワを訪れました。市民の生活水準は明らかに東京よりも高く、治安も安定しています。(中略)
それから監視カメラですね。(中略)市民からすれば、「監視カメラに見られて、何か困ることがあるのですか。私はありませんよ」といった具合で、監視社会への批判や不満の声は聞こえてきません。(中略)
モスクワの街を歩くと、ゴミひとつ落ちていません。(中略)
住宅価格も下がりました。(中略)
こうした意味で、ロシアの国民は困っていません。むしろ満足度が高まるとともに保守化しています。(P. 21)

博学かつ頭脳明晰でいらっしゃるおふたりとは思えない、素朴なコメントでした。

治安にしても街の美化にしても他のもろもろにしても、たんに独裁国家のほうが取り組みやすいというだけの話でしょう。

現に、インターネットに「モスクワ 生活水準」と打ち込んでみたところ、「モスクワ市民はプーチン政権を支えるため特別に優遇されており、生活に強い不満を抱かないように政府が配慮している面があります」なる「AI回答」が得られました。

つづいて尋ねた「モスクワ 治安」への「AI回答」によれば、佐藤氏の説とは真逆で、「日本と比較すると、殺人、強姦、強盗、窃盗などの凶悪犯罪の件数は依然として多い状況です」なのだそうです。

モスクワ市民との監視カメラに関するやりとりについては、そのやりとり自体が監視カメラで録画されている可能性があり、だからそう答えるしかなかったのではないでしょうか?

ただし、わたしが唱えたい異議は、引用箇所のみ。

『21世紀の独裁』は価値ある一冊でした。

知識人たちが、知識を総動員して意見交換するとどれほど濃い内容になるか、また、知識を駆使しながら現実を見るとどれほど定かに現実が見えてくるのかを、知ることができる本です。

金原俊輔