『子どもの脳を傷つける親たち』、友田明美著、NHK出版新書、2017年。

「マルトリートメント」という言葉があります。

友田氏はこの言葉を、親が子に対しておこなう、

言葉による脅し、威嚇(いかく)、罵倒、あるいは無視する、放っておくなどの行為のほか、子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかもマルトリートメントと見なします。(pp.14)

と定義されました。

そして、

(1)マルトリートメントの強度・頻度しだいで子どもの脳が悪影響をこうむる場合がある

(2)悪影響とは「不安感」「おびえ」「情緒障害」「うつ」「引きこもり」「学校不適応」などである

(3)そのような子どもたちには薬物療法・心理療法が有効性を示す

(4)マルトリートメントを受けても発達段階で大きな問題や困難を経験せずに成長してゆく子どもたちもいる

こう解説しました。

上掲書は「子どもたちにかなり有害なマルトリートメント」という重たい問題に取り組んだ本です。

著者は真摯なかたのようで、読んでいて文章に好感をおぼえました。

わたしが所属する行動主義の学派を評価してくださっており、

幼少期のトラウマをもつ人に対しては、認知行動療法や薬物療法が有効であることがわかってきています。
オランダの精神科医であるキャサリン・トーマス氏らは、これらの療法を受けた人は、扁桃体の過活動が低下し、前帯状皮質背側部や背外側前頭前皮質、海馬の働きが活発になることを明らかにしました。(pp.111)

以上の傾向に言及されていて、ありがたかったです。
同様に、行動療法の「曝露療法」についても肯定的な感想を述べられていました。

いっぽう、129ページから数ページにわたり、トラウマ治療法として「EMDR」のご紹介をなさっています。

大事な情報だとは思います。

しかし、心理学の領域で「EMDRの効果はけっきょく曝露療法の効果であった(EMDRは独自の効果を有していなかった)」旨の報告もありますので、もうすこし抑制した書きかたのほうが適切だったのではないでしょうか。

EMDRへの疑義は英語版『Wikipedia』の「EMDR」の項で詳述されています。

最後に、この本のような啓蒙書は、科学的データに裏打ちされている限りにおいて、もっと読者を勇気づける展開にすべきだったと感じました。

たとえば上記(4)の「マルトリートメントを受けても発達段階で大きな問題や困難を経験せずに成長してゆく子どもたちもいる」件。

幼少期にひどい家庭環境に身を置いたり苦しい体験をしたりした子どもたちのほとんどが正常な大人に成長している事実を見出した研究報告が多数あります。

ジョージ・フランクの研究、アーサー・スコルニックの研究、H・レナードおよびF・エステスの研究、ジーン・マクファーレンらの研究、などです。

くわしくはシドニー・ウォーカー著『狂気と正気のさじ加減:これでいいのか精神科医療』、共立出版(1999年)に記載されています。

本書は、もともとマルトリートメント被害の体験をもつ人々を励ます内容を含んでいたものの、こうした研究結果をも提示していたら当事者たちにより力をあたえて良かっただろう、と想像しました。

金原俊輔