最近読んだ本399

『スマホ脳』、アンデシュ・ハンセン著、新潮新書、2020年。

スウェーデンの精神科医ハンセン氏(1974年生まれ、男性)が世に問うた警告の書です。

氏の主な訴えは、

「スマホの使用を制限すること(pp.235)」

「人間の脳はデジタル社会に適応していない(pp.7)」

以上ふたつに要約されるでしょう。

各国の研究結果とくに北欧の研究結果を多く参照し、そのうえ進化論の視点をも交えつつ、いかにスマホが人類にとり望ましくないものであるかを力説なさっています。

スマホだのSNSだのを使用しすぎたため、人が依存症になってしまう流れは、よく知られています。

著者によれば、長期的な使用は、孤独感、うつ病になる危険性、健忘症になる可能性、眠りを妨げる、食欲を意味なく刺激する、IQ(知能指数)を低下させる、自制心の発達を阻む、といった諸問題にも結びつく由でした。

子どもへの悪影響については、章をひとつ設けて詳述なさっています。

スクールカウンセラーとして学校の児童生徒のスマホ依存蔓延を憂いているわたしには、貴重な情報でした。

それにしても、

SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していることや、どのくらいの頻度が効果的なのかを、ちゃんとわかっている。時間を問わずスマホを手に取りたくなるような、驚きの瞬間を創造する知識も持っている。「『いいね』が1個ついたかも? 見てみよう」と思うのは、「ポーカーをもう1ゲームだけ、次こそは勝てるはず」と同じメカニズムなのだ。
このような企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っている。(pp.78)

当方が予想していたとおりで、予想は「最近読んだ本60」で書きました。

供給側の工夫というか悪だくみに、一般の人たち、なかでも若年層が、まんまと取りこまれてしまっているわけです。

フェイスブックの「いいね」機能を開発した米国のジャスティン・ローゼンスタイン氏は、

後悔したようにこう発言している。「製品を開発するときに最善を尽くすのは当然のこと。それが思ってもみないような悪影響を与える……それに気づいたのは後になってからだ」
このような意見を持つのは、シリコンバレーで彼1人ではない。(pp.80)

「気づき」「意見」だけでは不十分であり、工夫・悪だくみに手を染めている面々は自分らが世界に対し何をしてしまっているのか、よくよく省みてほしいです。

著者が発した「スマホは私たちの最新のドラッグである(pp.67)」という言葉の深刻さを噛みしめ、そして正しい行動に移るべき。

『スマホ脳』は現代人必読の一冊でした。

本書にかぎらず、わが国内外で、子どもや若者におよぶパソコン・スマホ・インターネット・ゲームの害を論じた文献が多数出版されています。

わたしが読んだ作品は、下記5編でした。

バリー・サンダース著『本が死ぬところ暴力が生まれる:電子メディア時代における人間性の崩壊』、新曜社(1998年)

ジェーン・ハーリー著『コンピュータが子どもの心を変える』、大修館書店(1999年)

アリソン・アームストロング、チャールズ・ケースメント共著『コンピュータに育てられた子どもたち:教育現場におけるコンピュータの脅威を探る』、七賢出版(2000年)

清川輝基著『人間になれない子どもたち:現代子育ての落し穴』、枻出版社(2003年)

古庄弘枝著『スマホ汚染:新型複合汚染の真実!』、鳥影社(2015年)

このうち『スマホ汚染』書は、電磁放射線の知識が皆無なわたしには、価値を判断することができませんでした。

もしかしたら、

森昭雄著『ゲーム脳の恐怖』、NHK出版 生活人新書(2002年)

と同様に科学性が低い(あるいは、ない)のかもしれません。

ほかでは「最近読んだ本318」も至当な警鐘を鳴らしています。

金原俊輔

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