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『発達障害のウソ:専門家、製薬会社、マスコミの罪を問う』、米田倫康著、扶桑社新書、2020年。

わたしは大学院で学んでいたころに、ある理論を考察する際、その理論を「支持する研究」「支持しない研究」両方に目をとおし、そうしたのち自己判断する、という学習法を教わりました。

行動療法重視の大学院だったのですが、上述のやりかたを背景に、同療法からしてみれば真逆に位置している精神分析の論文・書籍をかなり読まされ、良いトレーニングとなりました。

さて、『発達障害のウソ』。

発達障害の概念や治療法に関し、わたしがこれまで学んできた内容とおおむね正反対の主張が展開されている本でした。

米田氏(1978年生まれ)は、東京大学工学部のご卒業だそうですので、発達障害の専門家ではありません。

活動家でいらっしゃるみたいです。

活動家として非常に勉強しておられると感じました。

第1章では、発達障害なる語の「障害」には「一生改善不能だという誤ったイメージ(pp.29)」が付随してしまうと指摘され、「正確には『症候群』と呼ぶべき(pp.41)」旨を提唱なさっています。

異論はありません。

第3章「作られた『発達障害バブル』」。

米田氏は、2002年に実施された文部科学省の調査で、普通学級に在籍する児童生徒の「6.3%」が発達障害をかかえているという結果になったのは「悪質なウソ(pp.79)」「非科学的(pp.80)」と論難されています。

わたしは当該調査結果を知りませんでした(当時、新聞で読んだのでしょうけれど、忘れてしまっていました)。

氏が「何の知識もない担任教師に機械的に評価させた(pp.80)」調査法を弾劾していらっしゃることには不賛成で、教師のかたがたは知識も経験も十分おもちと思っています。

第7章では、発達障害が世間に知られるようになったおかげで特定の精神科医や製薬会社が潤った、旨の批判をなさりつつ、

発達障害バブルは、人々の不安と善意を煽ることでここまで成長してきました。そこには、人々に意図的に誤解と混乱を与えることで、発達障害の診断・治療は専門家にしかわからないというブラックボックスを作り出し、特定の専門家に早期に繋げることこそが唯一の解決策であるかのように錯覚させることを画策してきた人々がいます。(pp.244)

きびしいご発言を厭わない人物みたいです。

具体的な企業名および精神科医名すらお書きになっていました。

この種の出版物に企業名・個人名を載せるというのは(「名誉棄損」訴訟を念頭に)確固たる証拠を有されているからでしょう。

おなじく、著者は精神科医について、

危険な精神科医と聞くと、皆様はきっと「大量の薬を出す」「暴力を振るう」「暴言を吐く」「威圧的」「人の話を聞かない」「不正、詐欺を行う」といった、いかにもドラマや映画の悪役に登場するような悪徳精神科医をイメージすることでしょう。確かにそのような精神科医は危険ですし、実在します。(中略)
近付かないことで危険は回避できます。(中略)
真に危険な精神科医は、一見するとやさしそうです。よく話も聞いてくれます。薬もやたらには出さないかもしれません。患者や家族に慕われているかもしれません。しかし、ある一つの特徴があります。それは、患者の生きる能力と責任を着実に奪っていくということです。生かさず殺さず、自分に依存させていくのです。(pp.260)

えぐいほどの突っ込みようです。

参考になります。

ただ、書中、お考え違いの部分もありました。

一般に発達障害は脳機能の障害と理解されている件で、

脳波検査、脳血流検査、光トポグラフィー検査、CT検査、MRI検査などで脳の状態をある程度調べる技術は存在しています。もしも脳機能障害なる状態が存在するなら、検査でわかってもよさそうなものです。発達障害が脳の機能障害だというのであれば、それだけに特有の状態が見つかってもおかしくないはずです。
ところが、そのような特有の状態を見つけ出そうとする研究は数多く存在するものの、今のところ決定的なものは何一つ存在しません。(中略)
発達障害やそれを形成する個別の障害とは、脳機能障害の有無によって分類されたものではなく、人間が便宜的に決めた仮の分類に過ぎないのです。(pp.43)

こうお書きになっています。

実際は、発達障害の検査そして治療効果確認のため、すでに「光トポグラフィー検査」「MRI検査」などが用いられており、ある程度「特有の状態」が見出されているのです。

そもそも仮に現存の検査でわからないからといって、それが「脳機能障害の有無」のうち「無」を判断する根拠にはならないでしょう。

とはいえ、本書は、社会が受容している事柄の再検討を試みる、挑戦的な意欲作でした。

私見を述べます。

引用した「発達障害の診断・治療は専門家にしかわからないというブラックボックス~(pp.244)」の箇所ですが、個人的に発達障害の「診断」はそれほど重要でないのではないかと(荒っぽく)考えています。

かたや「治療」は、完璧な治療は今のところ難しいにしても、専門家が努力を傾注した賜物である医療・薬品の進歩に加え、世界各国で積み重ねられてきた行動療法の知見が、それとて「ブラックボックス」呼ばわりされるでしょうが、若干ながら当事者たちのお役に立つと信じます。

金原俊輔

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