『博愛のすすめ』、中川淳一郎、適菜収共著、講談社、2017年。

中川氏(1973年生まれ)は、ネットニュースの編集者。

適菜氏(1975年生まれ)は、哲学者で作家。

両者とも著書が多く、ご活躍中です。

ただ、わたし自身の既読書は、呉智英・適菜収共著『愚民文明の暴走』、講談社(2014年)だけでした(この本、たいして良いとは感じませんでした)。

『博愛のすすめ』は中川氏および適菜氏の対談をまとめた作品で、「博愛」という言葉を半ば本気で半ばギャグっぽく軸にしつつ、現代社会のあれこれを論じたものです。

読みすすむうち、わたしはおふたりの頭脳の明晰さそして博学ぶりに圧倒されました。

過去、この種の書物にて「バカ」とからかわれるのはインテリたちが多かったいっぽう、『博愛の~』は本物のバカおよびバカに近い人々を対象に「バカ発言」をしていました。

中川  せいぜい、「お前みたいなみじめなバカに生まれたこと、お前の親御さんが本当にかわいそうだよ。本当にお前はうんこを作るだけの能力しかないから」みたいな話にとどめ、人生の否定はしないように心がけます。(pp.25)

じゅうぶん否定しています。

あるいは、

適菜  そもそもバカに見させるためにテレビはあるわけです。ワイドショーはその典型です。バカのエサをつくるのがテレビの仕事ですから。(pp.154)

すごい本でした。

好みが分れる内容ではありますが、「辛口エッセイ」類が好きな読者諸氏には向いているようです。

さて、博愛がらみで、こんな話題も語られました。

中川  一橋大学の楠木建(1964~/経営学者)先生の授業です。
適菜  それは心理学の一コマですか?
中川  「生産管理」というどれだけよい組織を作れるかを学ぶ講義です。生産性を高めるためには組織の人間関係が重要ということです。組織論ですね。たとえば、20世紀前半のGEで女工が働いていたけど、生産性が低いので、どうすれば上がるのかと考えた。おやつの時間や照明の明るさを変えても、生産性は上がらない。それでヒアリングした結果、上司が好きだとやる気が上がり、生産性が高まり、従業員も幸せになるとか、そんな話に行き着いたんです。テクニカルに制度を変えるより、人間関係をどうするか考えたほうがいいというのが組織論のベースです。
適菜  非常に重要な話だと思います。愛の原理にもつながりますね。(pp.194)

上記は心理学者エルトン・メイヨー(1880~1949)らがおこなった「ホーソン実験」の話ではないかと思われます。

産業心理学の領域でとても有名です。

しかし、ホーソン実験はGE(ゼネラル・エレクトリック)社ではなくウェスタン・エレクトリック社において実施された研究ですから、わたしがまちがっているかもしれません。

わたしはホーソン実験の結果を解説した論文や専門書をちゃんと読んでいないのです。

楠木先生の講義は(わたしを含め)すべての経営者・管理職者が心に刻んでおくべきことでしょう。

大事な情報を入手できました。

金原俊輔