『理系という生き方:東工大講義 生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』、最相葉月著、ポプラ新書、2018年。

ノンフィクション作家である最相氏(1963年生まれ)が、東京工業大学で非常勤講師としておこなった講義の記録です。

わたしはかならずしも氏のファンではありません。

『星新一:1001話をつくった人』、新潮文庫(2010年)は熱を入れて読んだ反面、『セラピスト』、新潮文庫(2016年)は失礼ながら「失敗作」と思いました。

失敗作というよりは、著者の中にある「オカルトへの親和性」を感じ、賛同できなかったのです。

『絶対音感』、新潮文庫(2006年)は未読で、これは何だかおもしろそうです。

さて、『理系という生き方』。

全12章から成り、おもに科学者および科学の近隣で活動されているかたがたの学術的エピソードを紹介した内容です。

第3章、マリー・キュリー(1867~1934)の話が凄絶でした。

キュリー婦人が自身のラジウム研究所で放射線に被曝し、おそらくその影響で死に至ってしまったという可能性は、人口に膾炙(かいしゃ)しています。

ところが、キュリーには日本人の弟子・山田延男(1896~1927)がいて、彼もまた放射線被曝と考えられる症状を呈し、日本へ帰国後、31歳の若さで他界されたのだそうです。

むかしのこととはいえ、放射線に対する無知・無防備さがこうした悲劇を引き起こしたのでしょう。

著者は以上の顛末(てんまつ)を丁寧かつ冷静に語られていました。

第12章「生物模倣のテクノロジー」も興味ぶかい話題でした。

自然界を参考にする学問「バイオミメティックス」や「バイオミミクリー」の研究者を紹介した章です。

ジャニンは、バイオミミクリーには三つの段階があると語る。
一つは、構造の模倣。具体例を挙げれば、空気の抵抗を軽減するカワセミのくちばしを真似た新幹線、水中で高い推進力をもつサメの肌に似せた競泳用水着、機敏な動きと強さをもつハコフグの形を真似た自動車、バックライトを使用する必要のないモルフォ蝶の青い羽根の構造を真似たタブレットなどがある。
もう一つは、製造工程を模倣したもの。クモや蚕の糸作りがその代表的なもの。
そして三つ目は、システムの模倣。(中略)渋滞してもぶつからない車は、並走したり接近したりしながら衝突せずに泳ぐ魚の群れの行動ルールを真似たもの。(pp.335)

たいへん参考になりました。

カウンセラーのわたしがこうした文章を読むと「動物たちはリラックスのためにどのような工夫をしているのだろうか、それを人間に応用できないか」的な発想につながります。

イルカにおけるストレス解消法、不眠症になったゴリラはどう対処する、亀は食べすぎをいかに抑えているのか、など……。

著者は関西学院大学法学部のご卒業です。

ということは、たぶん文系のかたと思われます。

そんな人物がよりにもよって理系の最たる人々である東工大の学生たちに理系講義をなさったわけです。

膨大なお時間を使ったご準備が必要だったでしょう。

敬服します。

金原俊輔