最近読んだ本636:『あっぱれ! 日本の新発明:世界を変えるイノベーション』、ブルーバックス探検隊 著、ブルーバックス、2024年

若かったころ講談社のブルーバックス・シリーズには大変お世話になりました。

現在、わが手元に残っている最も古いブルーバックス書は、

関寛治、犬田充、吉村融 著『行動科学入門:社会科学の新しい核心』、ブルーバックス(1970年)

で、これは学生時代にひもといた本です。

わたしに限らず、大学でブルーバックスを読み始め、今も読みつづけている学者・研究者・技術者は全国に多々おられるでしょう。

さて、『あっぱれ! 日本の新発明』は、「ブルーバックス編集部(pp.4)」の4氏が「国立研究開発法人 産業技術総合研究所(pp.4)」の協力のもと、同研究所が主導する日本の各種イノベーションについて取材した作品です(これまでのシリーズの生真面目さとは打って変わって、文章が結構ユーモラス)。

全10種類のトピックスが登場したものの、残念ながら、わたしは語られた話題のほとんどを理解できませんでした。

2018年、世界で得られた8つの高精度な測定値に基づいて、キログラムの定義が次の通りに決まった。

ブランク定数を10の34乗分の6.62607015ジュール秒
とすることによって定まる質量

8つの測定値のうち、じつに4つが日本で測定された値だった。これを支えていたのが日本の科学者や技術者だと思うと、なんとも誇らしい。(pp.144)

ああ、ブランク定数のジュール秒ね( ← ハッタリです)。

引用文の意味はまるでわからず、この新定義により世間の肥満者たちの体重がわずかでも軽くなるとしたら皆さん喜ばれるだろう、との下らないギャグしか思いつかなかったのですが、誇らしいのはこちらも同様。

わが国の科学技術がどんどん成果を出してほしいと祈念いたします。

ところで、心理学者のわたしは、第8章「『自動運転』の驚くべき未来図」の話には付いて行けました。

心理学を専門とされる木村健太氏がブルーバックス探検隊の取材をお受けになったためです。

基礎研究をもとに、ドライバーがどのようなときに「快」「不快」を感じるかを実験しながら調べていき、具体的に「自動車」という製品の応用研究につなげる、というのが、木村さんに期待された仕事だった。(pp.164)

いかなる「応用研究につなげる」かというと、それは「自動運転(pp.169)」。

「運転が楽しいと感じるためにとくに大事なのは、心理学でいう『行為の主体感』だということがわかってきました。(後略)」(pp.168)

「メーカーとしては愛着を持ってもらいたい。そのためには主体感がほしい。自分で操作はしなくても、なんらかの形で自ら運転しているような感覚です。(後略)」(pp.170)

木村氏は、自動運転と行為の主体感という二律背反する難題に取り組み、ひとつの解を導き出されつつあるみたいです。

ただし、やや疑問をおぼえます。

というのは、たとえ完全な自動運転が実現したとして、運転の主体感を強く求めるドライバーたちであったら、そもそも自動運転車を購入しないでしょう。

もちろん、主体感を求める傾向があまり強くなく、それでも少しぐらい主体感が欲しいと願うドライバーも、一定数は存在すると思います。

けれど、むしろ、車が自動運転で動いている最中、浮いた時間をインターネット閲覧やゲームや電話での会話に用いる層のほうが多いのではないか、つまり車がスマホ化してゆくのではないかと、わたしは予想するのですが……。

自動車といえば、別の章で、

アンモニアは水素原子を含む物質なので、次世代エネルギーである水素を運ぶ「輸送媒体」として役立つ可能性がある。
さらに、燃焼してもCO2を排出しない次世代の「燃料」としても注目され(中略)、すでに実証実験が進められている。(pp.215)

つい先日、当方、インターネットにてトヨタ自動車がアンモニアを燃料とする車の開発に成功したという記事を読んだばかり。

引用文内の「実証実験」が進展した模様で、もしかすると産業技術総合研究所およびトヨタ社が協力し合ったのかもしれません。

本書を理解する頭脳など皆目(かいもく)有していないとはいえ、わたしは、高度なお仕事にコツコツ取り組み、何らかの新発見をなさるかたがた、何らかの新技術を世界に提供されるかたがたを、人類の希望、国の宝、と見なすにやぶさかではありません。

金原俊輔