『歴史の余白:日本近現代こぼれ話』、浅見雅男著、文春新書、2018年。

明治時代から現在にいたるまでのできごとや人物に関し、ふつう教科書だの小説だのには取り上げられていないようなエピソード類を選んで綴った、史料集成です。

勝海舟(1823~1899)、大倉喜八郎(1837~1928)、西郷従道(1843~1902)、原敬(1856~1921)、森鴎外(1862~1922)、玉ノ海梅吉(1912~1988)、といった各界の重鎮たちが登場しました。

そして、たとえば西郷従道はイレズミをしていた、いいえ、していなかった、などの話題が語られています。

著者は1947年のお生まれです。

「歴史余話」的な本作を上梓なさったのは、長らく歴史研究に没頭されてきた賜物でしょう。

ご高齢になられても読書に励み、ご勉強を継続しておられるご様子が窺えます。

その姿勢に頭が下がりました。

上掲書を読みながら頭が下がったことがもうひとつあります。

枢密院議長だった倉富勇三郎(1853~1948)。

国立国会図書館憲政資料室に所蔵されている彼の膨大な日記は、極度に読みづらく、数行を解読するのに1時間かかってしまうほどのレベルだそうです。

ところが、

平成22(2010)年11月、素晴らしいことがおきた。永井和京都大学教授(現・京都橘大学教授)を中心とする研究会のひとびとが解読、活字化した『倉富勇三郎日記』の刊行が始まったのだ。
平成29年末までに3巻、大正8~13年のものが出版されているが、これだけでも例の宮中某重大事件などについて、ほかの資料などによっては分からなかった多くの重要な史実をあきらかにすることが出来る。
ただ、なにしろこの日記は分量が多い。そのためたとえば大正12、3年分をおさめる第3巻の日記本文は、1ページ28字24行2段で1500ページ近くにもなる。解読、校訂、解説にあたる方たちの労苦は、われわれの想像をはるかに超えるものだろう(後略)。(pp.104)

こうした地道な作業をコツコツなさる研究者諸氏のおかげで、いまのわたしたちは歴史を知り、歴史から学ぶことができるのです。

学術研究にはあまり目立たない分野への取り組みが含まれます。

引用内の研究会はとくに人目を引くとは思えないテーマを手がけていらっしゃるわけで、繰り返しとなりますが、頭が下がりました。

話題を少々変えさせていただきます。

日本史の著名人として、わたしは幕末の蘭方医・緒方洪庵(1810~1863)に非常な関心をもっています。

以前、この識者をくわしく調べて本を書こうと一念発起したものの(タイトルは『緒方洪庵:幕末のメンター』にする予定でした)、結局ずっと何もしていません。

オランダ語が分らない、医学を知らない、歴史は専門領域ではない、そういえば「明日できることは今日するな」という諺(ことわざ)だってあるじゃないか、などと、言い訳はたっぷり準備しています。

浅見氏の力作を読み、改めて自分の不勉強や不実行を反省しました。

金原俊輔