『忘れられたベストセラー作家』、小谷野敦著、イースト・プレス、2018年。

タイトルどおりの中身で、明治時代から現代までにかけてのベストセラーおよびその執筆者たちについて、小谷野氏(1962年生まれ)が調べあげ紹介した本です。

おもにフィクション諸作とフィクション作家諸氏が対象となっていました。

わたしは小谷野氏の学識や文才を尊敬しているので、これまでに出版された作品のほとんどを読みました。

そして毎回学ぶところがあります。

しかるにこのたびの一冊は、やや残念な気がしました。

資料なのか、エッセイ的な読物なのか、どっちつかずの内容だったためです。

上掲書に文学史の資料としての価値をもとめる場合は、著者の主観が入りこみすぎていると考えます。

いっぽう、エッセイとして読む場合、あつかわれている領域が膨大なせいで進行が早く、味わいに欠けました。

まあそれでも楽しみはしたのですが。

現在は、右翼本が売れるという。あとは陰謀論、オカルト、自己啓発書などが堅いところである。『嫌われる勇気などというのは、題名からするといい本のように見えるが、アドラー心理学のオカルト兼自己啓発書である。(pp.204)

こんな「一刀両断」ぶりが小谷野氏の真骨頂であり、わたしが好んでやまないところです。

さて、『忘れられた~』においては、

北杜夫著『どくとるマンボウ航海記』、中央公論社(1960年)

小松左京著『日本沈没』、光文社カッパ・ノベルス(1973年)

筒井康隆著『文学部唯野教授』、岩波書店(1990年)

などが語られていませんでした。

小谷野氏がユーモア文学あるいはSF小説に偏見をもっているとは思われず、わたしには理由がわかりません。

筒井康隆(1934年生まれ)がまったく忘れられていないのはいうまでもない反面、北杜夫(1927~2011)や小松左京(1931~2011)は残念ながらけっこう危なくなりだしてきているのでは……。

忘れられてしまったわけではなくとも、ベストセラーを著した点を鑑みて、こうしたかたがたもくわしく解説してほしかったです。

金原俊輔