『科学的に人間関係をよくする方法』、堀田秀吾著、角川新書、2018年。

明治大学法学部教授の著者(1968年生まれ)がお書きになった本です。

ご専攻である言語学の知見を踏まえ、心理学の実験結果もあれこれ織りまぜつつ、読者をグイグイ引っ張ってゆく内容でした。

読みごたえがありました。

ポール・グライスという言語学者が1975年に発表した「協調の原理」というコミュニケーションの原則があります。(中略)
「人が円滑にコミュニケーションをしているときには、『量のルール』『質のルール』『関連性のルール』『伝え方のルール』という4つのルールにしたがって話をしている」という理論で、「グライスの協調の原理」と呼ばれています。(pp.31)

わたしが知らなかった学説で、このあとのくわしい説明はたいへん参考になります。

言語学には、「有標」と「無標」という概念があります。
数ある定義の中、シカゴ大学の言語学者マコーレーの定義(1985年)を借りれば、ある状況(環境)の中で、標準、普通、当たり前のものを「無標」と呼び、異質、非標準、逸脱しているものを「有標」と呼びます。(pp.199)

これも新知識でした。

心理学者が人間の心理・行動を研究する際に援用すべき概念と思われます(「弁別刺激」というやや近い言葉は存在しますが)。

さらに、コラム「会話のときにスマホを見るのはあり? なし?」、時宜にかなう話題でした。

著者の場合は、

使う前には、「ちょっと調べてみますね」「急ぎのメールがあるのでちょっと見ていいですか」などと一声かけるようにしています。
まだ決まった作法が存在するわけではありませんが、結局は相手への気遣いが大事ということですから、こういったひと言があるだけできっと相手の印象も違うはずです。(pp.97)

適切な礼儀です。

スマホ・マナーの確立は現代日本における喫緊の課題でしょう。

ところで、本書ではどちらかというと言語学より心理学の研究のほうが多く語られています。

正確な心理学の紹介・解説でした。

たしかに読者が人間関係をよくするうえで役に立つ情報とも考えました。

ただし、「吊り橋効果」。

正式には「帰属的錯誤」と呼ばれるもので、簡単にいえば、原因の勘違いです。「吊り橋効果」というのは、「吊り橋を渡っていることに由来する不安感」を「恋愛におけるドキドキ感」と勘違いして、異性とともに吊り橋を渡ると相手に好意を持ってしまうというメカニズムです。(pp.54)

テレビのクイズ番組などで取りあげられて世間的に知られる心理現象です。

わたし自身は、吊り橋効果は「レスポンデント条件づけ(条件反射)」のひとつのあらわれに過ぎない、と受けとめています。

その角度からの言及もあったら、お話の中身がいっそう深まったのではないでしょうか。

また、69ページで説明されていた「ツンデレ」は、「オペラント条件づけ」における「部分強化」の作用と見ることが可能です。

これに関しても考察はなされていませんでした。

以上のように『科学的に人間関係を~』は、とても有益な読物ながら、心理学的な追究がすこし甘かったと感じます。

著者は言語学者ですので仕方がないことかもしれません。

金原俊輔