『米朝急転で始まる中国・韓国の悪夢:岐路に立つ日本』、宮崎正弘、室谷克実共著、徳間書店、2018年。

中国の国情に明るい宮崎氏(1946年生まれ)。

韓国世相に通暁されている室谷氏(1949年生まれ)。

上掲書は、おふたりの専門家が膨大な知識を駆使されつつ対談し、中国・韓国・日本の行方を予測したものです。

結論として、日本は今後、中韓の動向はさておきながら、マイペースで「新しい時代の、新しい『富国強兵』に進まざるを得ないこと(pp.248)」が提言されました。

この『米朝急転で~』を読んでいた際に幾度もわたしの頭をよぎったのは、議論されていた内容自体ではなく、日本メディアの「報道しない自由」の件でした。

書中、一般的なメディアからは入手できそうもない情報が、多々語られていたためです。

たとえば、わたしは2018年7月に発生した「ラオスのダム決壊事故」を憂慮しており、すぐに義捐金を送ったものの、どういうわけか、わが国では事故の詳報がありません。

不満をおぼえ、メディアはもうすこし諸外国に関する濃密な報道をしてほしい、と願っているところです。

それでは、わたしが『米朝急転で~』において濃密と感じた情報を、いくつか拾いだしてみましょう。

まず、韓国の軍隊の話題。

室谷  もともと、韓国の軍は機能していないのですよ。
機能するのは特戦師団と海兵隊と西部最前線の第9師団くらい。(中略)
なにしろ、中隊長が「地雷除去訓練に息子さんを参加させていいか」と親に電話し、親が「ダメだ」と言ったら参加させないのですから、もう軍隊ともいえません。あげくの果てに、司令官たちは汚職ばかりする。(pp.40)

つづいて、中国による韓国への嫌がらせのことも紹介されていました。

室谷  中国では、中国人の韓国旅行、とりわけ団体旅行が許可される韓国の地域が拡大したといいます。ところがそこにも条件が付いていて、中国人はロッテホテルおよびロッテの免税店を絶対に使ってはいけないという中国当局からのお達しがある。
これは、THAADの配備用地をロッテグループが提供した - 正確には国から別の土地をもらって交換したからですが、中国のTHAADに対する報復というのは、ロッテを血祭りに上げていることが特徴的です。
宮崎  中国国内のロッテマートも、消防施設の不備などさまざまな難癖をつけられて、その店舗の多くが営業停止に追い込まれましたからね。(pp.72)

3番目に、2018年に韓国でひらかれた平昌冬期オリンピック。

宮崎  平昌冬期オリンピックは経済成長に寄与したのですか。
室谷  (前略)韓国のオリンピック組織委員会は、「黒字だった」と言っていますが、それはあくまで組織委員会の暫定決算は黒字だったということです。オリンピックそのものが黒字だったという国民的錯覚を作りだそうとその部分をピックアップして出すわけですよ。
実質は国と地方自治体がたくさん持ち出している。それで過疎地の江原道の道路や鉄道などインフラを整えたのですが、それが黒字を出すかというとお先真っ暗です。
オリンピックの観客も思ったほど来なかった。(pp.144)

中国の「AIIB」や「一帯一路」に関しては、

宮崎  それにしても「一帯一路」はもう信用ならない。一時期は韓国も傾斜していましたよね。その後、どうなんですか。たしか韓国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に役員を送っていたはずですが。
室谷  AIIBに副総裁ポストを寄こせとねじ込んだのです。韓国産業銀行(国策銀行)の会長だった洪起沢(ホンギテク)が副総裁に就いたのですが、わずか4ヶ月でクビになりました。単純に仕事ができないから。以来、韓国の新聞に「一帯一路」はときどき出てきても、AIIBの話は出てきません。(pp.184)

中国の王毅外相がコスプレで日本の軍服を着た中国人青年を「人間のクズ」呼ばわりした一件について。

宮崎  日本のアニメのコスチューム大会なんて、中国全土でやっていますからね。ときとして政府の高官が個人的にムカッとすると、こういうことを言うんだろうけれど、おそらく、すぐ消えると思いますよ。
そもそも王毅自身が、「精神的日本人」に近い。日本語はペラペラで、日本の特性を非常によく知っています。(pp.194)

枚挙にいとまがないので、そろそろ引用を終了します。

インターネットでもこの類(たぐい)の突っこんだ情報が掲示されており、昨今、若い層への影響力が評価されています。

ただ、ネットの場合、目的の情報にたどりつくまでが難儀ですし、真偽のほども簡単には判断できず、外国語で書かれているような文章は「もはやお手上げ」となってしまいます。

地上波メディアおよび紙媒体メディアに奮闘していただきたいものです。

宮崎氏は、

私は2018年5月下旬まで10日ほどヨーロッパを旅行し、帰ってきた成田のキオスクで見た新聞に仰天しました。まだ「モリカケ」をやっていた(笑)。福田恒存が言ったように「末期的」です。
メディアは表面のあぶくしか観察する能力がないかのように、裏に潜む真実を伝えず、しかもファクトを意図的にねじ曲げ、イデオロギーに支配された記者や「論説委員」が、まったく主観的で、そのうえ検証もしない記事を垂れ流し、フェイクの責任を取らず、読者を騙してきました。(pp.205)

きびしいご指摘をなさいました。

おおむね同感です。

ひとつだけ、わたしが宮崎氏・室谷氏に賛成できない部分がありました。

ご両所は韓国政府のいわゆる「コウモリ外交」を語るときに、なぜかたびたび(揶揄するようなニュアンスで)かつての対馬藩を引き合いにだされたのです。

長崎県民として反論します。

コウモリ外交とは、旗幟鮮明とはいえない韓国の外交方針を指します。

同国が米・中・朝それぞれに対して良い顔をしつづけてしまった結果、いまや、どの国からも信頼を失いかねない状況に至りました。

つまりは失敗例です。

いっぽう、対馬藩。

小藩で、地理的に日本の中心部から遠く離れており、目と鼻の先には朝鮮半島だの大陸だのがあって常に臨戦態勢。

自藩を守るために、日本を守るためにも、知恵と度胸のかぎりを尽くした絶妙な外交を展開しなければなりませんでした。

そして、対馬藩はその役割を立派に果たしました。

いわば最高レベルのバランス感覚を有する藩だったわけで、けっしてコウモリ外交などではなく、みごとな「バランス外交」をおこなった、と見るべきでしょう。

金原俊輔