『漱石山脈:現代日本の礎を築いた「師弟愛」』、長尾剛著、朝日新書、2018年。

夏目漱石(1867~1916)に師事した門下生のグループを「漱石山脈」と呼びます。

おおむね、漱石が東大で英語教師だった時代に、彼の授業を受けた教え子たちです。

山脈とはやや大仰な表現ですが、多数が日本の文芸や学問に足跡をのこしたため、こう称されるようになりました。

本書は同山脈に連なる人々の人生および業績を解説した作品です。

寺田寅彦(1878~1935)

森田草平(1881~1949)

鈴木三重吉(1882~1936)

小宮豊隆(1884~1966)

以上の、いまだに名前が語られる機会がある有名どころはもちろん、

金子健二(1880~1962)

魚住惇吉(1880~1942)

といった、わたしなどがまったく知らなかった面々も含まれていました。

そして……。

257ページの「加計正文」の章。

わたしはこの加計という人物についても予備知識を有していませんでしたが、

広島の素封家「加計家」第22代当主。(pp.257)

鈴木三重吉の同期であり、二人は親友であった。中学卒業後、三重吉は三高(京都)に進み、加計は六高(岡山)に進んだため、高校時代は別れたが、ともに明治37年、東京帝大文科大学に入学。(pp.259)

だそうです。

岡山県に本部を置く、2018年現在話題の「加計学園」と、もしかしたら何らかのつながりがあるかたなのかもしれません。

閑話休題。

わたしは夏目漱石が大好きで、小説・評論・詩・俳句はほとんどすべて読み、書簡にもすこしは目をとおし、文学者としての彼をそれなりに知悉していたつもりでした。

しかし、『漱石山脈』に接した結果、漱石が文学者としてばかりではなく、教師としても非常に優秀だった事実を、認識することができました。

上掲書のなかで、彼が学生・弟子たちにだした手紙がたくさん紹介されています。

どれもが真心あふれる文章です。

学生や弟子がこんな手紙をもらったら、それはもう感激し発奮するしかないだろうと思いました。

たとえば、

あせってはいけません。頭を悪くしてはいけません。根気ずくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。(pp.204)

大学の卒業旅行中だった久米正雄(1891~1952)と芥川龍之介(1892~1927)に宛てたものです。

金原俊輔