『木村政彦 外伝』、増田俊也著、イースト・プレス、2018年。

増田氏(1965年生まれ)が上梓された前作は、

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、新潮社(2011年)

です。

わたしは名著と感じました。

そして『外伝』は『なぜ力道山を~』書の中に収めることができなかった文章や対談を取りまとめたもの。

全719ページの分厚さです。

たいへん読みごたえがあります。

著者における、プロレスラーに敗れた木村政彦(1917~1993)の名誉回復を図ろうとする執念と柔道への全身全霊をあげた傾倒とが、痛いほどに伝わってきました。

そのあらわれでしょうか、本書には「木村政彦vs山下泰裕、もし戦わば」という、非常に興味ぶかい反面、いくら考えても明確な結論へ到達するはずがない章も含まれています。

わたしの場合、第3章「柔道とは何か?」を、とてもおもしろく読みました。

実力はあっても不運だったため日本のトップに立てなかった選手、稽古に没頭した結果ついには何者も寄せつけない高度な技を身につけた選手、などの逸話が微に入り細にわたって語られています。

当該章には柔道を究めんとする人々の覚悟それに熱気が漂っていました。

さて、わたしは『なぜ力道山を~』を読んだ際も、『外伝』の読了後も、木村政彦より、彼の師匠であった牛島辰熊(1904~1985)に惹かれました。

ご自身が不世出の柔道家であり、引退後には、木村という自身以上の逸材を育てあげた人物。

極度の厳しさと心底からの愛情をもっていた良師でした。

柔道関係者を超えて、すべての大人とりわけ学校の教職員たちが心に留めておくべき存在でしょう。

適従しなければならない人です……。

最後に、この場を借りてひとこと。

わたしはかねて疑問に思っていたのですが、一般に、柔道の妙味を説明する言い回しとして「柔よく剛を制す」なる故事成語が用いられてきました。

しかし、自分の間近の柔道部員たちを見ても、上掲書を読んでも、柔道にあっては実のところ「剛」が最重要みたいです。

むしろ合気道のほうが「柔よく剛を制す」っぽさを有しているのではないでしょうか。

腕力だの体重だのがあまりなくても大丈夫ですから。

柔道および合気道はもともとひとつの武術でしたので、いっそ、もう一度くっつけてみてはどうか、と夢想しました。

金原俊輔