『ムカエマの世界』、みうらじゅん著、角川文庫、2019年。

神社の絵馬場にあまた奉納されている絵馬。

奉納した人たちが思い思いに絵や文章を書いています。

著者(1958年生まれ)は、そのうち「ムカムカ(pp.8)」させられる内容を含んだ絵馬のことを「ムカエマ」と呼び、いつしか「ムカエマ・ハンター(pp.9)」と化して全国の神社を回りだされました。

ハンティング成果を紹介した集大成が、本書の第1章です。

紹介するだけではなく、ひとつひとつのムカエマに、

「かわいい彼女が欲しいです」
そこまではいい。
「別にどんな女でもいいっス」
おいっ! 「いいっス」はないだろーが! 確実に神は年上なわけだ。しかも、ものすごぉーい年上に向かって、そのタメ口はないだろ!(pp.8)

引用のごとき半畳を入れてゆかれました。

よくまあ、こんな笑いのタネを発掘された、と敬服いたします。

つづく第2章と第3章は話題が一転し、「ユーモアを交えた社会時評・事物観賞」みたいな展開となりました。

これもまたおもしろく、みうら氏という異才のお力を感じます。

さすが「マイブーム」だの「ゆるキャラ」だのといった言葉を考案され世に流布させた、無類のエッセイスト兼イラストレーターです。

感性がすごいと言わざるを得ません。

それでは第2章内の「サックスの仲間 ヌード・サックス」項を読んでみましょう。

日本のあちこちに建っていると推測される「サックス奏者のおじさん」像を巧みにからかったページでした。

みうら氏は、神奈川県の箱根、福井県、山口県宇部市などで、不本意にも問題の像と遭遇なさったそうです。

像はオールヌードだったり、上半身だけヌードだったり、まちまちだった由。

果たしてこれら三体は同一人物なのか? そして日本全国には、どれだけの「何故にサックス? 何故にヌード? 像」が存在するのだろうか!? オレは知りたくてまだ旅を続けている。(pp.140)

長崎県からご報告いたします。

長崎市西浜町に「サックスおじさん」の像が設置されています。

まさに『ムカエマの世界』140ページの写真とそっくりであり、頭に鳥がのっかっているところも同じでした。

お顔立ちを見るとどうやら白人のようで、体型は力士的(肥満かつ筋肉質)。

他所とはすこし相違があります。

長崎市の場合、なぜかサックスおじさん単体ではなく、お隣にネコの像、さらにそのお隣には花束をかかえて座っている少女の像、が並んでいました。

謎が謎を呼びます……。

わたしがこの像を確かめに行ったのは2019年4月1日。

当日、世間は新元号「令和」を寿いでいました。

かくも大事な日に、わたしはおめおめと「サックスおじさん像」確認をおこなっていたのです。

金原俊輔