『触れることの科学:なぜ感じるのか、どう感じるのか』、デイヴィッド・J・リンデン著、河出文庫、2019年。

著者(1961年生まれ)は、アメリカの神経科学者。

メリーランド州にあるジョンズ・ホプキンス大学医学部教授です。

上掲書は「触覚」「皮膚感覚」についての本で、非常に専門性が高い内容でした。

わずかながら超常体験に関する章もあります。

全体をとおして印象的な話が多々語られましたが、そのうちのひとつは、

最近、一部のC線維がある特別な触覚情報を伝達していることがはっきりしてきた。C触覚線維と呼ばれるその神経は、人と人との接触に特化した、いわば愛撫のセンサーなのである。(pp.116)

つまり「C触覚線維」なるものの働きの結果、われわれ人間は「なでられて心地よい」と感じる由。

健常者の前腕や大腿を速度を変えて撫でる実験で、被験者が最も心地よいと報告した速度は、毎秒3~10センチの範囲だった。この範囲は、C触覚線維が最も強く活動する範囲と正確に一致している。(pp.120)

要するに、1秒につき3センチから10センチぐらいの範囲でなでてあげれば、相手は心地よさをおぼえる、ということ。

知っておいて損はない情報と思います。

しかし、

撫でられることを求めたり、それで心地よく感じたりする感覚を発達させるには、一定量の経験が必要なのかもしれない。自閉症の人々は、触覚とは無関係な理由により社会生活を制限されているために、幼少期にそうした経験ができないのかもしれない。(pp.128)

うーん、どうなのでしょうか。

上記の仮説、遠回しに自閉症者のご家族(とくに、保護者たち)を責めているのではないか、と感じられます。

『触れることの科学』は、著者の学識に圧倒される反面、読物としてのまとまりが悪く、引用のように議論の余地があったり脱線してしまったりしている箇所もあちこちで見受けられました。

まあ学術論文ではありませんから、自分の好みにしたがってのびのび書く、というのは許されて良いのかもしれません。

別の感想です。

わたしは、この種の本ですので行動主義心理学を提唱したジョン・B・ワトソン(1878~1958)が登場するだろうと予想していたところ、案の定「プロローグ」内で、出てきました。

ワトソンはふつう学問の世界における「悪役」です。

しかし、著者は、たいして否定的なあつかいをなさっていませんでした。

そういえばワトソンもむかしジョンズ・ホプキンス大学の教授。

著者にとっては「職場の著名な先輩」にあたり、いくぶんご遠慮があったのでしょう。

金原俊輔