最近読んだ本305

『科学者が消える:ノーベル賞が取れなくなる日本』、岩本宣明著、東洋経済新報社、2019年。

現在の日本では科学研究の成果が質量ともに衰退してきている、原因は、

(1)研究費が潤沢ではないため

(2)研究の分野に進んでも生活が安定しないので、能力ある若者層が敬遠しだしているため

(3)研究者たちが国際協同化の波に取り残されてしまっているため

『科学者が消える』は、大意このような状況を、さまざまなデータを駆使しながら解説した本です。

いまのままでは科学・技術の力が大幅に低下し、日本の国力すら落ちてしまう、いかに改善すれば良いんだ……?

ある意味「憂国の書」と呼んでも差し支えない内容でした。

さて、一般に、すばらしい研究結果を記した学術論文が発表されると、当該論文は世界各国の研究者の論文において引用されます。

ひとつの論文がいくつの論文内で引用されたかを数値であらわしたものを「被引用論文数」といいます。

仮りに、その論文がノーベル賞を受賞するとして、「日本人受賞者の平均は25年(pp.142)」ほどかかるそうなので、

Top1%補正論文数の日本のシェアは分数カウント法で4.7%から4.3%、2.4%へと減り続けています。Top10%は5.8%、5.5%、3.1%です。25年前の高被引用論文数シェアとノーベル賞受賞者数のシェアが強い相関を示すという仮説が正しければ、日本人ノーベル賞受賞者は次第に少なくなっていき、2040年頃にはノーベル賞受賞者数の日本のシェアは3%前後となる可能性があります。自然科学系受賞者の数は毎年6人前後ですから、その3%は0.18人です。5年に一人受賞できるかどうかという数です。(pp.145)

アメリカは受賞者を減らし、中国は毎年のように受賞者を輩出する。そして、日本は5年ぶりの受賞の知らせに拍手を送っている。30年後のノーベル賞授賞シーズンは、そんな光景になっているかもしれません。(pp.149)

たしかに不安をおぼえます。

では、どう対処すれば事態を改善できるのか。

わたしに名案はありませんが、まずは女性研究者の数を増やす取り組みが肝要ではないか、このように考えます。

昨今のわが国、ほとんど毎年ノーベル賞を獲得している反面、まだ女性受賞者はいません。

早く最初のおひとりが登場してほしいですし、登場すると、第一号に刺激され、より多くの才能豊かな女性たちが研究職をめざしだすでしょう。

岩本氏(1961年生まれ)が別件で書かれた文章を借用させてください。

日本バドミントン界には長期低迷の時代がありました。風向きが変わったのは、オグシオの愛称で人気を集めた小椋久美子・潮田玲子ペアが2007年の世界選手権で銅メダルを獲得した前後からです。(中略)
翌年2008年の競技人口は23万人でしたが9年後の2017年には約30万人に増加しました。中学生、高校生の競技者の増加は著しく、2008年にはそれぞれ6万3000人、8万4000人でしたが、2017年には8万7000人、11万2000人に増えました。中学生は38%、高校生は33%の増加率です。(pp.37)

と、なるわけです。

そして日本の研究実績が一気に高まる……。

ところで、東京大・京都大・北海道大・東北大・名古屋大・大阪大・九州大を「国立7大学」と総称しますが、

ノーベル賞の自然科学部門の日本出身受賞者は23人、うち6人が7大学以外の出身者です。占有率は26%です。多いのか少ないのか、ちょっと微妙です。が、優秀な研究者は大規模総合大学に多いはずだという「常識」は、やはり考え直すべきではないでしょうか。(pp.225)

著者は本書の後半、最近あちこちで指摘される如上の傾向に触れられました。

国立7大学を出ていない研究者諸氏の励みになっている傾向ではないかと想像されます。

金原俊輔

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