最近読んだ本306

『インドが変える世界地図:モディの衝撃』、広瀬公巳著、文春新書、2019年。

われわれ日本人は、長いあいだ、インドといえば「カレーライスの本家」程度の認識しかもっていませんでした。

あとはインド象ぐらい……?

ところが、同国と日本の関係が深化するに応じ、認識のほうも深まりだしてきています。

街のあちこちで見かけるインド料理店はカレーライス以外のメニューを多数提供し、ナン、タンドリーチキン、チャイ、チャパティ、といった飲食物は、いまや日本人の耳目に(舌にも)新しくありません。

ヨガは完全に本邦文化の一角に入り込んでいるといって良い状況でしょう。

さらに、「インド式二ケタかけ算」が紹介され、わが国の教育界が刺激を受けました。

日印政府高官らの相互訪問にいたっては、新聞やテレビニュースでしばしば報道されています。

なんだか急に身近な存在になった感じです。

本書は、そのインドの現況を紹介した内容でした。

おもに経済と科学技術に焦点を当てて話が進められます。

個人的には、

第4章 グジャラート州から生まれた政治家

第5章 モディ首相が誕生するまで

の2章がおもしろく、ナレンドラ・モディ首相(1950年生まれ)の生い立ち・業績をくわしく知ることができました。

貧しい家庭で育ったナレンドラは、父親が副業としてヴァドナガル駅でチャイを売るのを兄弟と一緒に手伝った。列車が駅に停車すると、父親の淹れたチャイをホームまで運ぶ。(中略)
それを乗客に売り歩く。ナレンドラは喜び勇んで父親のチャイ売りの手伝いをした。(pp.94)

家は、植物油を絞ることを生業(なりわい)とするカースト「ガンチ」とされていて、この階層は「不可触民」ほど強い差別は受けないものの、インド政府によって社会的、経済的に後れた「その他後進階級」に指定されていた。(pp.95)

地域の伝統にのっとって、ナレンドラは13歳の時に両親が決めた相手と婚約する。だが、18歳で結婚する予定だったにもかかわらず、結局、しなかった。モディは今も独身だ。婚約者の女性は未婚のまま、今も彼の帰りを地元で待っているという。(pp.95)

モディ首相は、ツイッターのアカウントに5千万人近いフォロワーを持っている。現職の指導者としては、世界一のフォロワー数をもつトランプ大統領の約6千万に迫る。(中略)
インド首相として2014年の初来日に際し、ツイッターで「私が特に心待ちにしているのは、安倍首相にお会いすることだ」と日本語でつぶやいた。そして「日本人の持つイノベーションの規模と高い精密性は賞賛に値する」「印日関係を強化するこの訪問を、とても楽しみにしている」とコメントした。(pp.127)

なるほど……。

逆境から這いあがってきた苦労人が率いるインド。

そうした人物を首相に選出したインド国民たち。

魅力的です。

今後「13億のインドの人口は、2027年前後には中国(pp.5)」を上回り、おまけに「2028年までに日本とドイツを追い抜き、世界3位の経済大国に(pp.5)」なる、由でした。

というのなら、『インドが変える世界地図』であれ、他の書籍であれ、わたしたちはインド関係の文献を読み、日本の将来のために、先方をしっかり理解しておくべきではないでしょうか。

金原俊輔

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