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『タイワニーズ:故郷喪失者の物語』、野嶋剛著、小学館、2018年。
台湾のご出身で、あるいは国籍が台湾で、そして、おもに日本で暮らされている著名人たちを、列伝風に取りあげた作品です。
登場されるのは全11名。
すでに亡くなられた人物も含まれていましたが、より多かったのは、
ジュディ・オング氏(1950年生まれ)
余貴美子氏(1956年生まれ)
蓮舫氏(1967年生まれ)
東山彰良氏(1968年生まれ)
以上のような、2018年現在、ご活躍中のかたがたです。
おひとりおひとりの経歴、さらにはご家族の歴史までもが、くわしく紹介されていました。
台湾と日本には深いつながりがあります。
しかし、残念ながら、政治的な理由のため、かならずしも大手を振ってつながりを互いに確認し合ったり他国へ示したりすることができない場合があります。
そうした状況下、本書の登場人物たちは、
諦めずに、多くのことを成し遂げた。日本と台湾、ときに中国や米国まで巻き込んで貴重な功績を残した。故郷を失うことで「国家」から自由になった彼らでなければできない役割を力強く担った。(pp.3)
こんな強さを有していました。
野村総合研究所のリチャード・クー氏(1954年生まれ)が典型例で、
日本人なのか、台湾人なのか、あるいは米国人なのかと言われると、なんとも形容し難いことは、本人も自覚している。
「めちゃくちゃでよくわからない。チャンポンですよ。住んでいる時間は日本が最も長い。でも、故郷と思えるのは中学から大学まで過ごした米国のサンフランシスコ。でもルーツは台湾にあるし」
そこまで語ったところで、ガハハと大声で笑った。(pp.77)
読者は、どこが故郷なのか判然とせず、「アイデンティティ」も混乱するような境遇を、むしろ楽しんでいる、かえってご発展のバネにしている、そういうしたたかな面々と出会えます。
わたしが最も興味をおぼえたのは、安藤百福氏(1910~2007)。
インスタントラーメンという食品は、安藤氏が独力で開発されたとばかり思いこんでいましたが、
戦前の台湾や対岸の福建省で、「雞蓉麺(ジーロンミェン)」という即席麺があったことがわかった。細麺を油で揚げ、乾燥した肉や野菜も入っていて、お湯をかければ食べることができる仕立ての商品だ。
これなどは外見上、完全にチキンラーメンの原型だと言えるだろう。(pp.228)
つまり、安藤氏の故郷に類似の食べものがあった由です。
氏は生前、類似品があった事実を語らなかったそうで、もしかしたら、その件を知られたくなかった(ご自分の創意工夫にしておきたかった)のかもしれません。
わたしとしては、氏が「雞蓉麺」なるものをヒントにインスタントラーメンを発想され、それにより巨大なビジネス領域を切りひらかれた、世界の食文化にも影響を与えられた、非常にすばらしいことではないかと考えます。
なにしろインスタントラーメンは子ども時代からの好物なので……。
最後になります。
『タイワニーズ』でも紹介されていましたが、ジュディ・オング氏は、2011年の「東日本大震災」のときに、急きょ台湾へ戻られ、日本の被災地を支援する募金活動の先頭に立ってくださいました。
本書に出てくる他のかたがたも大なり小なり同様の動きをなさったのではないかと想像します。
それが台湾から日本への巨額の義捐金に結実しました。
日本人は感謝しなければなりません。
金原俊輔