最近読んだ本361

『ウイルスと内向の時代』、佐藤優著、徳間書店、2020年。

標題の「内向」なる言葉には、

多くの日本人があまりに内向きになってしまい、他人事のように政府を批判する状況に筆者が危機感を覚えたからだ。(pp.6)

という(かなり分りづらい)意味合いが込められているそうです。

上掲書は、新型コロナウイルス感染症対策に国家の「強権発動(pp.19)」が必要か否かの検討、諸外国が犯してしまった失敗の精査、「日本の有事対応(pp.109)」吟味など、全5章の構成でした。

そのなかで佐藤氏(1960年生まれ)は、わが国の国会における政争凍結を提唱なさっています。

2011年3月11日の東日本大震災のときの首相は民主党の菅直人氏だった。当時、野党だった自民党と公明党は、日本が危機から脱するために政争を停止した。この姿勢に国民は共感し、のちの自公による政権再奪還につながったのだ。(中略)
新型コロナウイルスの封じ込めに目処(めど)が立つまで政治休戦を宣言することで、野党に対する国民の共感度も増すと思う。(pp.145)

たしかにそうすべきかもしれません。

しかし、残念ながらコロナ禍は長期化する様相を帯びだしていますので、「政治休戦」をしたとしても結局「目処」は立たず、間を置かないで戦闘再開にいたるのではないでしょうか……。

わたしはこれまで著者の本を少なからず読み、毎度、啓発されてきました。

けれども、今回の『ウイルスと内向の時代』は、まるで走り書きをなさったかのような印象を受けましたし、お書きになっている事柄にいつもの深さや独自の視座は見られませんでした。

ロシア政府およびロシア・メディアの発表を重視しすぎている点も瑕疵(かし)と考えます。

さらに、本書全体をとおして語られた各国感染者数の比較・考察は、以下はまだ仮説なものの、白人種だの黄色人種だのといった民族ごとに異なる遺伝子が多寡の偶因である(『読売新聞オンライン』2020年5月22日)場合、意義が無に帰するでしょう。

わたしが唯一関心を引かれたのは、著者の今井首相補佐官にたいする肯定的な評価でした。

安倍首相が今井氏のような危機管理能力が高い側近に相談し、迅速かつ「独裁的」に決断できたことは肯定的に評価されるべきだ。(pp.116)

安倍首相の官邸を支える今井尚哉首相補佐官や北村滋国家安全保障局長などは、自己抑制の利いたタイプの官僚だ。権力にぶら下がるようなことはないだろう。(pp.132)

当今、どちらかといえば今井氏は「叩かれる側」に身を置いておられ、わたし自身、同氏を糾弾する文章を目にした記憶があります。

いっぽう、著者の佐藤氏は今井氏を認めていらっしゃる。

われわれ一般読者にはいずれが正しいのやら判断がつきませんが、著者が大勢と異なる私見を顕示されたのはご立派です。

金原俊輔

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