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『メルケル 仮面の裏側:ドイツは日本の反面教師である』、川口マーン惠美 著、PHP新書、2021年。
川口マーン氏(1956年生まれ)は、ドイツ在住の著述家で、ピアニストでもいらっしゃいます。
氏による上掲書は、ドイツ連邦共和国アンゲラ・メルケル首相(1954年生まれ)の「首相独裁主義(pp.223)」を糾弾する読物でした。
メルケル首相は日本でけっこう人気がある外国首脳なのですが、川口マーン氏は、
彼女は(中略)もはや人権の擁護者でも、おそらく環境保護者でもない。だから、まず結論を言うなら、「日本人はメルケルを誤解している」。(pp.5)
と、お考えです。
かくも厳しい評価を裏づける残念な話が『メルケル 仮面の~』内につぎつぎ登場してきました。
メルケル首相は、政界における自らの野心を成就するため他者を駆逐し(他者のなかには所属政党の同志それに恩人すら含まれています)、政治的なご主張をいつのまにか真逆に変容させつつも恥じず、100万人前後の難民受け入れによりドイツおよびEUを大混乱におとしいれました。
わたしは首相を清廉・有能な女性と見ていたものの、かならずしもそうではなく、また、なかなかの狸でいらっしゃるみたいです。
とはいえ、彼女が有する「国母(pp.194)」のイメージは不動。
ドイツ国民からの支持はゆるぎません……。
以下、本書に接し、わたしが関心を刺激された話題を紹介しましょう。
まず、
この頃、ドイツ経済はどん底だった。東ドイツ経済の崩壊後4年が過ぎても、新しい統一ドイツの堅固な産業構造を築くという計画は、まるでうまくいっていなかった。(中略)
強みは、負担の大きさが、一時的にドイツの国力を弱めたとはいえ、ザルのような東ドイツに注ぐ資金が尽きなかったことだ。(中略)
効果は、十数年も経ったあとで、明確に現れてくる。不況から立ち直り、十分強大になったドイツは、次第に東ヨーロッパでのヘゲモニーを獲得し、さらにその影響力をEU全体にも伸ばしていく。(pp.128)
日独は困難を乗り越える底力をもっていて、歴史上、第2次世界大戦敗戦あるいは東西ドイツ統一そして東日本大震災などののち、その力を世界に示しました。
よく指摘されるとおり両国にはどこか共通点があるのではないでしょうか。
ふたつめです。
2021年1月、米国でトランプ大統領のツイッターのアカウントが停止された時、メルケルはそれを、言論の自由を侵すとして非難した。確かにその通りだが、少々、片腹痛いと感じたのは私だけか?(pp.224)
アメリカ・トランプ前大統領(1946年生まれ)に起こったアカウント停止措置、当該事案にたいするメルケル首相の悲憤コメント、記憶しております。
わたしは当初、同首相のご発言は正しいと思い、いまもそう思っています。
しかし、本書によれば、首相とて似たようなSNS上の言論抑圧をなさっている由でした。
それで「片腹痛い」わけです。
最後に、まったく私的な事柄を書きます。
つい先年まで、ドイツ・メルケル首相に加え、わが国の安倍首相(1954年生まれ)、イギリスのメイ首相(1956年生まれ)、台湾の蔡総統(1956年生まれ)たちが、外交で活躍されていました。
1955年生まれであるわたしにとって、こうした「同世代の人々の活躍」は、かなり嬉しく親近感をおぼえるものでした。
金原俊輔