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『57歳で婚活したらすごかった』、石神賢介 著、新潮新書、2021年。
石神氏(1962年生まれ)は、離婚歴をおもちで、ながらく独身、とはいえ再婚願望はずっとあった由でした。
コロナ禍によって、「結婚したい」願望は「結婚しなくてはならない」になった。パートナーがいれば助け合える。「愛する女性と手を携えて生きていきたい」と願った。(pp.11)
そこで、
年齢は「57歳」、身長は「169センチ」、体形は「ふつう」。(中略)
職種は「フリーランスの記者」、学歴は「大学卒」、婚歴は「あり」、子どもは「なし」、喫煙の習慣と飲酒の習慣は「なし」。年収は、いいときで900万円くらいだが、安定せず、波は大きい。(pp.16)
こうしたプロフィールをご提示され、種々の婚活をなさいました。
「種々」というのは、婚活アプリの利用、結婚相談所に登録、イベント系婚活や婚活パーティーへの参加、などです。
しかして残念ながらハッピーエンドまではたどりつけなかった、その一部始終を記したのが、上掲書でした。
わたしにとり異世界の話題だらけで好奇心を刺激された内容です。
たとえば「寺社婚活」という、思いもよらないイベントがあるらしく、
僧侶が現れて、法話が始まった。内容は婚活とはまったく関係ない。(中略)
盛り上がりのないまま話は終わり、部屋を移して仏教の経典を書き写す写経の時間になった。(中略)
次は座禅。(中略)
座禅を終えるとお寺をあとにして、二次会会場の居酒屋へ向かった。しかし、想定していないことが起きた。約半数の女性が二次会に参加せずに帰ったのだ。(pp.162)
参加費は5000円であったとのこと。
『57歳で婚活したらすごかった』においては、もっとすごく、もっとどぎつい珍談奇談が、続々登場しました。
どれもが本書の「売り」の部分ですから、わたしが当コラムで紹介すべきではないでしょう。
著者の場合、お仕事がお仕事だけに、ご体験を文章にまとめ出版することは当然ずっと意識されていたはず。
にもかかわらず、ご自分の仕事を離れ「切実(pp.50)」だった本音も吐露されています。
「『婚活アリ地獄』にはまってきたように感じた(pp.165)」「婚活を重ねることで、婚活から抜けられなくなってきた(pp.165)」なる重たい内省すら……。
ところが、さまざまなご体験のあげく、たどりついた結論は、
婚活に費やすエネルギーと時間をもっと自分自身の質の向上に使ったほうが、結婚しようがしまいが幸せにつながると思った。その結果、誰かと手を携えて生きるチャンスがあればなによりだ。(pp.206)
自我が育ち切ってしまった中高年の場合、一人で生きていく自信があってこそ、自分以外の人間に費やす時間と余力があってこそ、誰かと一緒に生きることができるのではないだろうか。(pp.208)
やや当たり障りのないものになってしまいました。
あとひとひねり、ほしかったです。
金原俊輔