メンタルヘルス情報9:ストレス学説
「ストレス」は物理学や工学の領域で使われていた専門用語です。
これを、1927年、アメリカの生理学者ウォルター・キャノン(1871~1945)が、動物の生理現象を解説する際に借用しました。
現在の意味合いでストレスという言葉が定着したのは、カナダの生理学者ハンス・セリエ(1907~1982)が「ストレス学説」を提唱してから。
1936年でした。
この学説、簡単にいえば「人がストレッサーを受けると、3段階のストレス反応が生じる」という説です。
「ストレッサー」とは外部からやってくる刺激のことであり、ストレッサーによって引き起こされる反応が「ストレス反応」です。(*)
ストレス学説では、ストレッサーの影響をこうむるものとして「身体」が想定されていたのですが、アメリカの行動主義心理学者リチャード・ラザルス(1922~2002)は、影響をこうむるものに「心」も加えました。
つまりストレッサーは心身に影響をおよぼすわけです。
それでは、勤労者たちにとってのストレッサーは何か?
業務量、長時間労働、上司そして同僚、顧客、職場の雰囲気、昇進または降格、リストラ、倒産、借金、等々が考えられます。
ほかにも無数にあるでしょう。
勤労者がそうしたストレッサーを受けた結果、どんなストレス反応が起こるのか?
以下、勤労者のストレス反応を説明するにあたって、昨今、全国の事業場で実施されている「ストレスチェック」の文言を用いながら話をすすめます(念のため、長崎メンタル社ストレスチェックの調査票に記されている番号も併記しておきます)。
まず、勤労者の身体にあらわれやすいストレス反応としては、「25:へとへとだ」「26:だるい」などの疲労感が代表的です。
「36:めまいがする」「38:頭が重かったり頭痛がする」「39:首筋や肩がこる」といった症状が出ている場合は、自律神経系のバランスの乱れが懸念されます。
睡眠もストレス反応の強弱を知るために重要であり、それで「46:よく眠れない」という質問項目が配置されているのです。
つづいて、勤労者の心のほうへ目を向けると、「22:内心腹立たしい」「23:イライラしている」などの質問項目は、精神面が過敏になっているかどうかを調べるものです。
「30:ゆううつだ」という不調が発現したら要注意ですし、「31:何をするのも面倒だ」「32:物事に集中できない」も同様です。
理由は、上記の計3項目、ストレッサーを原因として抑うつ状態にいたった方々がよく示す症状だからです。
以上、勤労者の心身に生じるストレス反応を概説しました。
さて、すでに紹介したとおり、前出セリエのストレス学説ではストレス反応の流れを3段階に区分しています。
それらは「警告反応期」「抵抗期」「疲弊(ひへい)期」です。
警告反応期とは、ストレッサーを受けた直後に、受けた本人の抵抗力が低下してしまう時期のこと。
抵抗期は、警告反応期のあとに登場します。
人がストレッサーを受ける状況に慣れ、その人の抵抗力が上昇して一定を保つ時期です。
ご自身はストレッサーに打ち勝ったように感じがち、周囲も当人がストレッサーに対処できていると見なしがちです。
最後にくる疲弊期とは、ストレッサーをずっと受けた結果、別の表現をすれば抵抗期が長期化した結果、疲れ果て、燃えつき、彼・彼女の抵抗力が再び落ちてしまう時期です。
疲弊期に「適応障害」などの精神疾患をわずらってしまう例がすくなくありません。
そうならない対応が肝要です。
ストレスチェック調査票は3段階のすべてを網羅するように作成されています。
疲弊期をむかえていた受検者が「高ストレス者」に認定され、それによって心の病気発症を予防する、という展開が期待されます。
ただし、警告反応期や抵抗期の受検者が高ストレス者に認定されるケースも、じゅうぶんあり得ます。
* 一般に、われわれ日本人は、ストレッサーのことをストレスと呼んでいます。
金原俊輔