最近読んだ本569:『「外圧」の日本史:白村江の戦い・蒙古襲来・黒船から現代まで』、本郷和人、簑原俊洋 共著、朝日新書、2023年
日本が経験したいろいろな戦争について2名の学者が語り合った対談書です。
第1章「遣隋使・遣唐使:聖徳太子と朝貢外交」から最終の第14章「降伏と占領期:戦後日本の原型の成立」までを通読すれば、わが国の歴史がおおむね頭に入るという壮大な内容でした。
東京大学史料編纂所教授の本郷氏(1960年生まれ)。
簑原氏(1971年生まれ)は「日系アメリカ人(pp.3)」の由で、神戸大学大学院教授をなさっているそうです。
わたしは本郷氏の著作を一冊だけ読んだことがあります。「最近読んだ本531」
しかし、簑原氏とは今回初めて出会いました。
おふたかたとも篤学の士でいらっしゃり、日本史の前半~中盤に関しては本郷氏のほうの知識量が深い、近現代に入るや簑原氏の学識が肉薄してくる、そのように感じられます。
専門的なご発言をいくつか抜粋すると、
本郷 蒙古襲来によって日本が受けた影響は大きかったと思います。その一つは、元軍が操る集団戦法というものを、初めて鎌倉武士が体験したことです。「やあやあ、我こそは」といって一騎打ちを挑んだのに、太鼓やドラを鳴らしながら集団で向かってきたり、てつはうや毒矢が飛んできたりするのですから驚いたと思いますよ。数十年後の南北朝の内乱では、国内でも実際に集団戦法が使われるようになります。(中略)
集団戦の中から槍も生まれました。それまで日本に槍はなかったんです。長い武器は薙刀が主流でした。何で薙刀を使わなくなったのかというと、薙刀は横に払って使うので、集団戦だと敵でなく味方を斬ってしまう危険があったからです。(pp.85)
ひとつひとつが新奇な情報でした。
なお「てつはう」とは「鉄砲(pp.81)」のことです。
簑原 不思議なのは、19世紀に日本人と接触したアメリカ人の文書を見ると、人種差別の要素が見当たりません。つまり、対等に見てるんですね。おそらく、当時のアメリカ人は初めて日本人と会って、極めて高い文化水準にあることを認識したのだと思います。中国に対する印象とは全然違うんですね。(pp.205)
このご指摘、そう偏(かたよ)った指摘ではありません。
というのは、19世紀にマシュー・ペリー(1794~1858)が執筆した、
M・C・ペリー 著『ペリー提督日本遠征記』、角川ソフィア文庫(2014年)
あるいは、20世紀、アルベルト・アインシュタイン(1879~1955)の、
アルバート・アインシュタイン 著『アインシュタインの旅行日記:日本・パレスチナ・スペイン』、草思社(2019年)
などをとおしても窺える傾向なのです。
最後に、『「外圧」の日本史』は歴史一辺倒の読物ではなく、現代社会の諸相を考察できる話題も随所に盛り込まれていました。
簑原 私が外務省の友人たちとお酒を飲む時、彼らがいつもいうのは、日本は自ら変わる力はない、だから外圧をうまく利用するしかないと。(中略)
アメリカとの交渉で常に日本が負けているようにみえるけど、そうしないと日本を変えることができないからというんです。アメリカが強く押してきたといえば日本の政治家も受け入れるしかないという気持ちになるだろうと。(pp.60)
きっとお話のような実態が存在するのでしょう。
アメリカ合衆国から「外圧」がおよんだせいで、日本は半導体の分野で後れを取りすぎたり、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)ではいわば梯子を外される形になったり、してしまいました。
また、あいまいな記憶ですが、いま成功裏に進んでいるとはいえない法科大学院制度も、たしかアメリカの強い勧めを受けて設けたはず。
こうした事象を思うにつけ、日本政府が「外圧を利用(pp.61)」するのはほどほどにしてほしいとの私見に達します。
金原俊輔