最近読んだ本335

『理不尽な国ニッポン』、ジャン=マリ・ブイス著、河出書房新社、2020年。

ブイス氏は1950年パリ生まれのフランス人男性。

在日歴は20年を超えていらっしゃいます。

歴史学者で、東京大学や慶應義塾大学さらに早稲田大学にて教鞭をとってこられました。

上掲書は、日本を知り抜いているブイス氏がフランス人向けに執筆された、現代日本論です。

まずは、

日本は安全な国である。フランスで、私は泥棒に入られ、スリに身ぐるみはがされ、仕事場からは日本の貴重な美術書が3巻も消えた。しかもそこは警備員のいる建物で、部屋には厳重に鍵をかけていた……。息子の一人は、現金自動支払機で20ユーロを引き出したときにナイフで襲われ、彼も泥棒にやられている。娘の一人はスクーターと、次いで自転車を盗まれた。妻もパリの歩道で二人の不良に襲われた。この二人はしかし相手を見くびっていた。妻は日本人で、九州の捕鯨漁師の孫娘、命がけでルイ・ヴィトンのバッグを守り、不良たちは何も取らずに立ち去った。すべては10年間の出来事だ。対して日本では20年間、面倒なことは何一つ、私にも、家族の誰にも起こらなかった。(pp.19)

しばしば外国人が称える日本社会の安全ぶりから話がスタートしました。

そして次第に、わが国の欠点・矛盾・ストレス・停滞など、厳しく重い話題へと筆が進んでゆきます。

ひとつ例をあげれば、

2015年、ジャーナリストの伊藤詩織が有名な日本のプレスの特派員から薬を飲まされ、レイプされたと告発した。彼女はこの国でレイプを訴えた女性に強いられる侮辱的な取り扱いに直面し、警察官の前で人間大の人形を相手に実際のレイプシーンを再現することまで強制された。彼女が告発した相手は首相と個人的に親しかった。裁判所は準強姦(当時)容疑を認め、逮捕状が出たのだが、寸前で逮捕は中止。捜査の継続はほとんど不可能になり、事件は不起訴処分で終結した。(中略)
しかし伊藤は諦めなかった。自分の体験を著書にして発表、相手には民事裁判で損害賠償を請求した。2017年、東京の日本外国特派員記者協会主催の記者会見で、それまで家族の要望で隠していた実名と顔を公表した。(中略)
人気女性ブロガー「はあちゅう」によると、ネット上では、告発した女性たちにネトウヨが「地獄の思いをさせている」そうだ。伊藤も、顔を隠さずに外出することができなくなり、最終的にはロンドンで職についている。(pp.119)

暗澹とした気もちになります。

レイプそれ自体が日本に特有な問題というわけではないものの、レイプに関連する周囲の対応や反応については「かなり日本的」と認めざるを得ませんでした。

伊藤氏の孤独で勇気ある闘いに満腔の敬意を表します。

このように『理不尽な国ニッポン』では、多様な事件・現象・データが参照されつつ、日本国内で罷(まか)りとおる「理不尽」が追及されました。

著者が正確かつ豊富な知識に基づいてお書きになっているので、勘違いも反論の余地もありません。

のみならず、たんに日本の変なところばかりあげつらうのではなく、書中、わが国への愛情を十分お示しになりました。

そのうえ、ご自身の母国フランスにも冷徹で客観的な目を向けていらっしゃいます。

終盤に入り、ブイス氏はいくつかの提言をなさったのですが、本邦における経済力低迷と少子化の問題を俎上にのせて対策を検討されたのち、

日本の将来は、より多く生産するよりはむしろ、よりよく生産する能力で保証されていると言えるだろう。(pp.360)

こうお書きになり、日本人読者を「ホッ」とさせてくださいました。

おりしも「新型コロナウイルス禍」による教訓として、政府は中国に進出していた日系企業の自国復帰または他国移転を誘導しだしています。

引用文の「よりよく生産する」ことを促進させる動きなのではないでしょうか。

金原俊輔

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